そこに存在するだけで、独特の「おかしみ」を感じさせ、日本中を笑顔にしてしまう稀有のコメディアン。3月29日、新型コロナウイルスによる肺炎で急逝した志村けんさんの偉大さを改めて実感する◆だが、スーパースターの最期は哀切に満ちていた。遺体は病院から火葬場に直行。遺族は感染予防のため火葬場に入れず、最後の対面もできなかった。生前の人気に見合う盛大な見送りを受けることもなかった。報道陣の取材に応じた志村さんの兄は、遺骨を抱いて「重いね。まだ温かい」と悲しんだ◆厚労省による注意事項で、遺体は血液や体液を通さない「非透過性納体袋」に納めることが望ましいとされ、志村さんのケースも同様な取り扱いだったようだ。厚労省は遺族が遺体に対面したり、火葬後に骨を拾ったりすることを禁じていないが、対応は現場に委ねている◆第一線の著名人が疫病に倒れたことは、日本がまさに「非常事態」に陥りつつある現実を浮き彫りにした◆小池百合子都知事は「コロナウイルスの危険性についてメッセージを届けてくださったという最後の功績も大変大きい」と追悼。表現は物議をかもしたが、言いたいことは分かる。志村さんの死は、自ら疫病に対する国民の楯(たて)となった「戦死」なのかも知れない。