中国の京劇や日本の歌舞伎に「見栄を切る」という所作がある。自分の力を誇示するような態度と言動を指す。米国による領事館閉鎖騒動は、まさにこれではないか◆見栄を切ったのは、この伝統が脈々と伝えられてきている中国ではなく米国。中国軍による知的財産窃盗の「震源地」、そしてスパイ活動の拠点であるとしてテキサス州ヒューストンにある中国総領事館の閉鎖を命じたのだ◆対抗策として中国政府は四川省成都の米領事館を閉鎖した。米政府はさらにサンフランシスコ総領事館の閉鎖も視野に入れており、双方による力の応酬が激化している。米側の事情がきっかけとみられる◆米大統領選投票日を11月3日に控え、この選挙対策の意味合いが強いという。トランプ大統領や共和党の支持率は低下の一方で、民主党のバイデン候補の優勢が伝えられている。選挙戦を有利に導くため、中国に対して強硬に出たとの見方がある◆米国で中国によるスパイ活動は最近始まったことではなく、以前から米政府も対応していて、このタイミングでの強行策は、選挙対策と見られても仕方がない。現時点で米中に全面対立の覚悟があり、準備を進めているとは思えないが、せめて見栄を切るだけに抑えてもらいたい。もっとも中国はこの伝統芸を既に乱発しているのだが。(O)