【視点】沖縄も対岸の火事でない香港問題

 中国が香港民主派への弾圧を強めており、欧米から批判の声が強まっている。国民の政治活動を力ずくで封じ込める中国政府の姿勢は、石垣市の尖閣諸島周辺で日本の漁業者を威嚇し、自国の権益を拡大しようとする中国公船の活動に通じるものがある。根っこは一つだ。隣国に対して強圧的な態度で臨むのは、非民主的な国家の特徴でもある。香港は沖縄にとって対岸の火事ではない。
 香港では、当局が中国に批判的な香港紙の創業者、黎智英(れい・ちえい)を詐欺罪で収監。「民主派の女神」として日本で知名度が高い民主活動家の周庭(しゅう・てい)氏、黄之鋒(こう・しほう)氏も抗議デモの責任を問われ実刑判決を受けた。
 米国に次ぐ経済力や軍事力を誇り、国際社会で大きな存在感を持つ国が、白昼公然と民主主義を踏みにじっている。中国の振る舞いは、世界の民主主義の行方に暗い影を投げ掛けている。
 「香港の次は台湾」と誰もが思うのは当然だ。台湾海峡付近で中国軍機の威嚇的な飛行が相次いでいることもあり、台湾は神経を尖らせている。最近では中国の新型コロナウイルス感染対策を賛美した児童向け絵本が発禁になった。日本も台湾の危機感をわがこととして受け止める必要がある。
 トランプ政権は台湾への武器輸出を拡大するなど、台湾防衛に関与する姿勢を明確化した。バイデン次期政権もトランプ政権の戦略を引き継ぐべきだ。だが現時点で、バイデン次期政権の対中政策がどのようなものかは曖昧なままだ。
 次期副大統領に就任するハリス上院議員は、ホワイトハウス入りする初の黒人女性として、大きな期待感をもって迎えられている。だが副大統領候補同士の討論会ではほとんど中国を批判せず、むしろトランプ政権の対中姿勢を糾弾するなど、国際情勢に対する見識が感じられなかった。不安要素は強い。
 香港や台湾問題に対する日本政府の追及も甘い。経済の対中依存が進む中で、外交的なバランスを取ることに苦慮しているようだ。政府に毅然たる行動を求めるのであれば、国民が声を上げるほかはない。
 国会では中国の香港やウイグル族弾圧を念頭に、超党派で、人権侵害に関与した外国の団体・個人に対する制裁を可能にする初の法律制定を目指す動きがある。
 台湾問題に関しては先日、石垣市で日台の相互交流を促進する日本版「台湾関係法」の制定を訴える集会が開かれた。主催者側からは「台湾有事は沖縄有事」と指摘する声が上がった。国民や政府を動かすには、中国に対する最前線である沖縄から香港問題に対する抗議や、台湾への支援強化を発信することが最も効果的だろう。
 ただ沖縄はコロナ禍の直前まで、中国から多数の観光客を受け入れてきたこともあり、中国に国際ルール順守求める明確なメッセージを発してこなかった。
 玉城デニー知事が中国主導の経済圏構想「一帯一路」への沖縄参加や、習近平国家主席の来沖を要請するなど、県政トップの誤解を招く行動も頻発している。
 沖縄が対中融和的と見られることは、長い目で見て沖縄のためにはならない。尖閣諸島問題などへの悪影響を通じ、むしろ県民の利益が損なわれる懸念が大きい。

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