沖縄戦の混乱は戦後75年たった今も残り火としてくすぶっている。真和志村上之屋(現那覇市上之屋)の旧泊浄水場関連用地の所有権を巡る紛争もその一つだ。市有地として登記されているが、所有権を主張する那覇市の女性(90)は市の手続きに疑義があるとして返還を求める。市の申請文書に偽造の疑いを指摘する筆跡鑑定が出て新たな展開を見せている。
那覇市は戦前から浄水場関連用地の所有権を主張していたが、沖縄戦で公的な記録文書が焼失した。1947年、2㌶(4筆)分について真和志村字土地所有権委員会に各筆1通ずつ計4通の所有申請書を出し、52年に証明証の交付を受け、55~61年に所有権保存登記をした。
女性側は申請書に保証人として記載された2人の土地調査委員(ともに故人)の署名が同一人物の疑いがあるとし、神奈川県の筆跡鑑定人に鑑定を依頼した。鑑定人は今年4月、「4通とも筆跡は同一人物」と結論付けた。
女性側によると、土地は大正時代に親が当時の貴族院議員から譲り受け、46年に相続を受けた。「市は戦後のどさくさに紛れて土地を違法に取得した。所有権は認められず、返還すべきだ」と話している。
対象地は5筆に分筆されて2004年に換地され、那覇市の泊配水池と安里配水池、市上下水道局庁舎の一部に移った。所有権を巡る紛争は一部訴訟に発展し、06年に最高裁で女性側敗訴が確定している。
市水道局は筆跡が同一人物との疑いを否定し、「法令に基づいて申請し、適正に所有権の認定を受けた」と正当性を主張している。