防衛省で前幕僚長を務めた河野克俊氏が12日、日本記者クラブでオンライン会見し、石垣市が尖閣諸島に字名変更を示す標柱を設置するため、政府に上陸を申請する意向を示していることについて「特に官僚の反対がものすごい。現実問題として難しい」と述べた。尖閣上陸に対する政府の慎重姿勢が改めて浮き彫りになった。
河野氏は元東京新聞編集委員のフリージャーナリスト、椎谷哲夫氏の質問に答えた。「尖閣は全くの無防備、無人島で、日本が隙を見せれば(中国が)いつでも取れる状況にあることは確か」と危惧した。
その上で「(石垣市の関係者を)上陸させるべきという議論もあるが『中国が来たら誰が責任を取るんだ』という話になって、特に官僚の反対はものすごい。今の状態は日本にとって不利なので何とかしないといかんと思うが、日本国内の反対、政府内の反対は相当なものがあり、現実問題として難しい」と明かした。
尖閣周辺では中国が艦船を常駐させ、着々と侵奪を進めている。河野氏は「(政府は)昭和年代に人を住まわせるとか、公務員を常駐させるとかという手を打っていれば良かった」と吐露。
自らは、尖閣に人を上陸させないと領土保全の「脆弱性が増す」という論者だとした上で「現実問題としてそういう政策が取れるかと言うと、客観的に見て非常に難しい」と改めて強調した。
椎谷氏は八重山日報の取材に対し「尖閣の今の状態を放置するのはおかしいが、官僚の世界にいると、事なかれ主義になってしまう。(河野氏が)現状を非常に残念だと思っていることは感じた」と述べた。
石垣市は2020年10月、尖閣諸島の字名を「登野城尖閣」に変更した。中山義隆市長は市議会などで、新たな字名を記した標柱を設置するため、尖閣諸島への上陸を政府に申請すると表明。
市は現在、標柱製作を発注する準備に入っており、完成のめどがついた時点で上陸を申請するという。ただ加藤勝信官房長官は記者会見で、上陸を認めない方針を示唆している。