▽人間性に惚れた
「今の竹富町をどうにかしないとだめだ、という強い意志が伝わってきた」
今年2月ごろ、事務所に面会を求めてきた前泊正人氏の印象を振り返るのは、元保守系町議で前町商工会長の上勢頭保氏(73)=竹富=だ。
前泊氏は「町長選に出る」と打ち明け、後援会の共同代表に就任してほしいと頼んだ。
後援会は川満栄長元町長の会長就任が決まっていた。上勢頭氏は「後援会長が川満氏だけだと『革新』と言われる。保守のぼくが共同代表でないとだめだという声があったようだ」と明かす。
仕事熱心な町職員として前泊氏の名前は聞いていた。だが、どういう人物なのかはよく知らない。それでも前泊氏と話すうち、共同代表を引き受ける腹は決まった。「素直で真面目な人間性に惚れた」(上勢頭氏)のだ。
2020年の町長選でも周囲に推され、出馬を検討していた前泊氏。当時は西大舛高旬町長の存在が圧倒的で、結果は無投票だった。
しかし町長は汚職で逮捕され、町政に前代未聞の汚点を残し失脚。前泊氏は「今、町を変えないといけないという思いで出馬を決意した」と本紙インタビューで語った。
政治経験がなく、政党などの支持基盤を持たない前泊氏。島々を回り、地域住民から聞いた要望をノートに丹念に書き込んだ。石垣市の事務所に戻ると、ノートの中身を自らパソコンに打ち込んで政策資料をつくった。
40代という年齢は「若過ぎる」という批判もあった。しかし町内の若者たちは、次々と前泊陣営に参集した。
上勢頭氏は「今まで存在も知らなかった若い人たち。みんな『竹富町はこれでいいのか』という思いで動き出した」と指摘する。
そこに加わった応援団が公明党だ。
▽思いが歴史動かす
公明党八重山連合支部の町議、三盛克美氏(56)=西表西部=が前泊氏と初めて向き合ったのは3月上旬。「男気と覚悟を感じた。『自分のことはどうでもいい、町民のために今の政治を変えたい』という決意があった。本気だなと思った」
当初、前泊氏に感じていた不安は信頼に変わった。三盛氏は「会って話せば分かるんですよ」と前泊氏の人柄をアピールする。公明党の支持組織、創価学会のメンバーも前泊氏を支え、町内外で活発に運動した。
保守層を地盤とする対抗馬の那根操氏に対し、前泊陣営は「保守・革新・中道」の理想的な超党派体制を構築。陣営は選挙戦序盤から優勢ムードに包まれた。
上勢頭氏も三盛氏も、過去の町長選で支持していたのは西大舛町長だ。「従来の選挙なら泡沫扱いされてもおかしくない」(選挙関係者)前泊氏だったが、有力者が続々と支持を表明したことで、雪だるま式に得票が膨らんだ。町の選挙に地殻変動が起きていた。
18日、圧勝で当選が決まった。前泊氏は「まず思うこと。どういうふうにしたいのか、思いが体を動かし、進めていく原動力になる」と感激の面持ちを見せた。
権力者の思惑や政党内の勢力争いではなく、一人の「情熱」と「人柄」が政治を動かした。(続く)
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竹富町長選は元町職員の前泊正人氏(44)が前町議の那根操氏(70)を破り、初当選を果たした。超短期決戦を振り返る。(仲新城誠)