「大事の思案は軽くすべし」。佐賀藩に伝わる藩主の遺訓とされる。要するに、大事なことはあらかじめ方針を決めておくべきという趣旨だ◆台湾有事の勃発で沖縄が攻撃対象となった場合を想定し、国と県は先島諸島の住民や観光客約12万人を九州に避難させる方針だ。逃げるか、逃げないか。本来なら答えは簡単。人生に夢や希望がある20代や30代ならば、迷うことはない。とにかく生き延びて明日を見るべきだ。いずれは帰還して故郷を再建しなくてはならない。しかし老境に入った今は違う。この島に踏みとどまり、郷土防衛の捨て石になるのも大事な選択肢、と思い始めている◆そこまで考えなくても、人生を費やしてこの島で築いてきた財産を放棄し、他の土地へ移住するというのは、大変な決断だ。「現代にまさか、そんなことは」とも言えない。現に震災や原発事故で避難生活を強いられている人たちがいる。決して他人事ではない◆苦渋の選択を迫られるのは、離島住民だけではない。先島の次は沖縄本島、そしていずれは本土住民も同じ運命をたどるだろう。本土に逃げれば事足りるという話でもない◆いずれにせよ泰平の世は終わった。事件、事故、災害、そして有事。人生で備えるべきリスクの表に、新たな項目が加わった。