【視点】米大使来島 侵略抑止のメッセージだ

 まるで「侵略の同盟」ではないかとの感を強くする。ロシアのプーチン大統領は16日、大統領として5期目初の外遊先である中国北京を訪問した。習近平国家主席と「新時代の全面戦略協力パートナーシップ関係」の深化に向けた共同宣言に署名し、中ロの結束を誇示した。
 ロシアはウクライナ侵攻で世界を震撼させ、中国は南シナ海や台湾、沖縄周辺で一方的に勢力拡張を図る。両国は戦後、日米欧の民主主義国家を中心に形作られた国際秩序に、真正面から挑戦している。
 これまでも中国は、軍事転用可能な物資をロシアに輸出することでウクライナ侵攻を事実上、下支えしていると指摘されてきた。
 逆に考えれば、中国が台湾や沖縄の尖閣諸島周辺で何らかの動きに出る場合、ロシアがサポート役に回る可能性が高い。両国の連携は、沖縄にとっても気になる動きである。両首脳の握手によって、沖縄を取り巻く国際環境は、一層厳しさを増す。
 こうした中、米国のエマニュエル駐日大使が台湾に近い日本最西端の与那国町と、尖閣諸島を行政区域に抱える石垣市を訪問した。与那国町の糸数健一町長と面談したほか、石垣市では石垣海上保安部も視察し、尖閣問題への関心も示した。
 エマニュエル氏は「北海道から与那国までのコミットメント(関与)を示す」と日本防衛の決意を強調した。
 日本だけでは中ロの脅威に対抗できない。エマニュエル氏の八重山訪問は、台湾や尖閣周辺の不穏な動きを座視しないという米国の姿勢を明示したものだ。時宜を得ており、中国の侵略を抑止する強力なメッセージとして心強い。
 中ロと日米の大きな違いは、日米が民主主義と自由主義の価値観を共有していることだ。
 中国は習氏の権力掌握以降「中華民族の偉大な復興」をスローガンに、露骨な領土拡大政策に乗り出した。独裁国家は民主主義国家に比べ、戦争への歯止めが利きにくいことは歴史が証明している。
 日本が平和な世界を望むのであれば、民主主義陣営の一員として世界の権威主義や人権侵害と対峙しなくてはならない。そのためにも米国との協調は欠かせない。
 中ロの「同盟」は、まさに権威主義や人権侵害が、民主主義に対抗する一つの潮流として世界を席巻しようとしている現実を浮き彫りにした。私たちは国内でどう民主主義を実現するかを考えがちだが、実は民主主義は、国外からの攻撃にもさらされている。
 玉城デニー知事は沖縄を取り巻く緊張状態に関し、外交による平和的な解決を求める。尖閣問題でも中国に抗議していない。
 外交が必要なのは当然だ。だが台湾や尖閣の問題で、私たちが中国に対して決して妥協できないと感じるのは、中国が民主主義に対しても攻撃を仕掛けているからだ。
 知事はエマニュエル大使の八重山訪問を巡り、米側に大使が乗る軍用機が空港を使用しないよう申し入れた。日米の協力関係を無視した硬直的な対応である。中国に対し、妥協できない一線があることを見誤っているのではないか。

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