日本の安全保障の最前線となっている国境離島の現状を確認した。中谷元防衛相が21日から2日間、八重山の3市町を視察した。
国境の防衛強化、有事の際の避難体制など、八重山が抱える課題に対し認識を新たにする機会になったはずだ。住民の不安を直接聞くことができたのも大きい。米軍基地問題を抱える沖縄本島とはまた違った国境離島の声を、今後の防衛政策に生かしてほしい。
台湾から約110㌔の与那国町で糸数健一町長と面会した防衛相は、与那国駐屯地への地対空誘導弾部隊配備に理解を求めた。
与那国駐屯地には沿岸監視隊が配備されているが、現状では有事の際に島を守れる実力部隊がいない。
防衛省が検討しているのは「03式中距離地対空誘導弾」の能力向上型の配備で、弾道ミサイルの迎撃も可能となる。台湾有事の懸念が高まる中、トップ自らが国境離島の防衛強化に向けた決意を示した形だ。
糸数町長は与那国空港と、国に新設を要望する比川新港(仮称)の特定利用空港・港湾指定を求めた。防衛相は与那国島に先立ち波照間島も視察したが、波照間空港が特定利用空港の候補に挙がっていることも理由の一つと見られる。
新石垣空港も含めた八重山の3空港などの特定利用空港・港湾指定は、平時には地域振興を促進し、有事には住民避難の円滑化や防衛体制の強化につながる。空港管理者の県が慎重姿勢を崩さないのがネックだが、政府は粘り強く県を説得し、早期の指定を目指すべきだ。
防衛相は八重山視察の大きな理由として、有事の住民避難体制の確認を挙げた。国会で野党議員からこの問題の質問を受けたことがきっかけという。
八重山の3市町は、住民が全員九州に避難することが原則だ。しかし離島という地理的条件のため、避難のタイミングの決定、交通手段の確保など、実行に当たっては、さまざまな困難が考えられる。防衛相も実際に本土から遠く離れた八重山の地を踏み、そのことを体感したはずだ。
避難体制の検討はまだ始まったばかりで、八重山に関しても受け入れ先の県が決まった程度でしかなく、住民の実動訓練もまだ少ない。国、県、市町が連携し、検討作業をスピードアップさせる必要がある。
いずれにせよ大前提は有事を起こさせないことだ。そのためには国境離島の防衛体制を充実させ、抑止力を高めることが大事である。
住民避難やシェルターの整備など、有事を念頭に置いた準備を進めることも、他国に対して隙のない防衛体制を固めていることのアピールにつながり、抑止力を高めることに役立つ。防衛相の八重山訪問も、それ自体が有事を防ぐための大事な行動だ。