【視点】人命の損耗止めるのが最優先

 ロシアとウクライナの戦争停止に向け、米国とロシアの和平交渉が開始される。ウクライナや欧州抜きで進む協議には警戒の声が上がるが、バンス米副大統領はウクライナのゼレンスキー大統領との会談で「戦争を終結させ、永続的な平和を追求したい」と述べた。
 戦争は2022年2月のロシアによる侵攻開始から3年が経過し、長期化の様相を呈している。まずは人命の損耗を止めることが最優先課題であり、和平交渉の進ちょくに期待したい。
 ウクライナ戦争は侵略行為を開始したロシアが100%非難されるべきだが、現実の世界では必ずしも正義が勝つわけではない。この戦争ではロシア、ウクライナ双方とも「完全勝利」は困難という実情が浮き彫りになった。
 最大の理由は、ウクライナを支援する欧米諸国などが直接的に参戦し、ロシアのプーチン政権を打倒することが不可能という事実だ。
 ロシア国内への攻撃は、欧米を巻き込んだ世界的な全面戦争につながりかねない。欧米はウクライナに武器を供与しながら、ロシア国内を直接攻撃するのは認めないといった中途半端な対応が精いっぱいだった。しかもロシアは核の使用をちらつかせて欧米諸国を牽制した。
 「核なき世界」は人類の悲願であり、日本も唯一の被爆国として国際社会で核廃絶を訴え続ける責務がある。一方でウクライナ戦争が明らかにしたのは、現代では、核を持たない国が核保有国の格好の標的になるという冷酷な現実だ。核廃絶の議論も、理想と現実のバランスを見極めながら進めなくてはならないのである。
 和平交渉がウクライナや欧州抜きで進めば、仮に停戦が実現するとしても、ロシアが何らかの実利を得る懸念はぬぐえない。
 それがロシアにとって、多大な人命の犠牲と国際社会での孤立に見合う内容となるかは疑問だが、停戦合意のためには、国内向けに何らかのアピール材料は必要だろう。ウクライナも米ロの一方的な交渉に反発しながらも、実際には可能な限り早く停戦を実現したいのが本音のはずだ。
 米国は、最終的にはウクライナも交渉に参加させる意向を示している。ロシア、ウクライナ双方が最大限に自分を高く売りつける「ディール(取り引き)」がこれから始まると予想される。まさに和平交渉を主導するトランプ米政権の姿勢そのものである。
 日本にとってウクライナ戦争が他人事でないのは、アジアで「2匹目のドジョウ」を狙う中国の存在があるからだ。戦争がどのような形で決着するのか、台湾の併呑や沖縄への進出を狙う中国には一大関心事だろう。
 ウクライナ戦争には最大の教訓がある。戦争は事前の抑止が何より大事で、いざ起きてしまえば、その時点で当事国双方が敗者となることだ。
 侵略国が最大の悪であるとしても、被害国の政府もまた国民の生命財産を守る責務を負う以上、戦争を抑止できなかった結果責任は甘受しなくてはならない。どの国の政府であれ、抑止力の強化に全力を挙げるのは当然である。

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