【視点】米艦船入港 16年前とは一変した

 隔世の感がある。2009年に米海軍の掃海艇が初入港した石垣港には反対派が大挙して港に押しかけ、乗組員らの上陸を阻止するため「人間の壁」をつくって出入口を強行封鎖した。乗組員らは正面から反対派を突破し、現場は大混乱になった。
 当時の大浜長照市長は非常事態を宣言し、港湾担当課に対し、米艦船への一切の協力を拒むよう指示した。
 あれから16年。米海軍の揚陸艦が石垣港に入港したが、反対派の姿はまばらで、現場では八重山防衛協会が歓迎の横断幕を掲げた。中山義隆市長は入港について「法的にも、安全性も問題ない」と容認した。
 米艦船を迎える八重山の雰囲気は一変した。多くの住民が「米艦船の入港は平和を乱すためではなく、守るためだ」と理解するようになったためである。
 港湾で荷役作業を担当する労働組合が艦船の入港に反発し、一時、組合員の自宅待機を検討したが、最終的には見送った。八重山の世論も時代錯誤の反米軍、反自衛隊運動とは一線を画している。
 石垣市の行政区域である尖閣諸島周辺では、中国が虎視眈々と日本領の侵奪を狙い、中国艦船は今年も100日以上連続して航行を続けている。
 中国は八重山の隣にある台湾に対しても、日に日に軍事的圧力を強めている。沖縄や台湾周辺では、中国軍機や艦船が不穏な動きを続け、八重山周辺では、他国への攻撃に特化した装備である空母すら姿を現すようになった。
 ウクライナ戦争は、国連の常任理事国でさえ、白昼堂々、他国を侵略してはばからない現状を浮き彫りにした。尖閣や台湾での有事を抑止するには、日米が連携して地域の秩序を守る意思を中国に示すほかない。
 米艦船の入港はアジアの平和的秩序を維持するため、内外に存在感を誇示することが目的だ。
 石垣港に入港した米海軍の輸送揚陸艦「サンディエゴ」のティモシー・カーター艦長は報道陣の取材に「入港で日米同盟の強固さとコミットメントを明確に示す」と述べた。米国が八重山の地理的重要性を理解し、防衛の意思を改めて明確化したことを評価したい。
 基地問題を抱える沖縄県民の間では、米軍に対する警戒感が根強いのは事実だ。
 国境の八重山でも米軍が参加する軍事訓練は、陸自の駐屯地内で抑制的に行われている現状が住民にとってぎりぎりの許容範囲内と言える。住民はもろ手を挙げて島の「軍事化」を歓迎しているわけではない。
 しかし日米同盟が中国のやりたい放題に一定の歯止めを掛け、アジアの秩序を安定させているのは、まぎれもない現実だ。住民は尖閣や台湾の危機を通し、そのことを肌で感じている。
 今回は米艦船と同時に自衛艦も石垣港に入港した。タイミングは偶然とされており、その真偽は分からない。だが結果として、日米艦船が並んで停泊することで両国の結束をアピールできたなら、平和維持への寄与はなお大きい。

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