首脳同士がカメラの前で激しく口論する前代未聞の展開になった。世界が注目した米国のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談だ。
ウクライナ戦争では米ロが停戦交渉に乗り出しているが、当事国であるウクライナが最大の後ろ盾である米国と決裂する事態になれば、停戦のゆくえは一気に不透明感を増す。
口論のきっかけは、バイデン前政権の対ロ対応を批判したバンス米副大統領の発言に、ゼレンスキー氏が口を挟んだことだった。
ロシアを強く非難するゼレンスキー氏にトランプ氏は「あなたは第三次世界大戦を賭けてギャンブルしている」などと述べ、両者が激しく応酬した。
トランプ氏がゼレンスキー氏を「独裁者」と呼ぶなど、両者は会談前からぎくしゃくした雰囲気で、ゼレンスキー氏がトランプ氏に不快感を抱いていたことは想像に難くない。ゼレンスキー氏をぞんざいに扱ったトランプ氏の態度も、超大国のリーダーとしての度量を欠いていたように見えた。
ただ、口論の口火を切ったのは、ほかならぬゼレンスキー氏である。戦火にさらされている自国民を救う重大な使命を帯びて訪米した大統領が、国運を賭けた場面で感情をむき出しにしたのは、いただけない。
トランプ氏を批判するのは簡単だが、この会談結果に関しては、誰が善で誰が悪かが問題ではない。ゼレンスキー氏が責任ある政治家として結果を出し、国益を守ることができたかが問題だ。
戦争責任が全面的にロシアにあることや、ウクライナへの同情を考慮に入れても、ゼレンスキー氏の外交姿勢を評価することは到底できない。
停戦交渉を商売のようなディール(取り引き)と捉えてロシアとの直接交渉に乗り出し、ウクライナからの資源供与を通じて米国自身の利益も最大化しようとするトランプ氏の戦略を、ゼレンスキー氏も知らないはずがない。
バイデン前政権時とは状況が大きく変化していることを認識し、十分に準備を重ねた上でトランプ氏と会うべきだった。
2月に石破茂首相がトランプ氏と初会談した際、首相は暗殺未遂事件から生還したトランプ氏が「神から選ばれた」とたたえた。日本企業による米国への巨額投資も説明した。
周囲からはトランプ氏の歓心を買っていると受け止められ「おべっか」と批判する米メディアもあった。
だが首相は明らかに周到な準備の上で首脳会談に臨んだ。ゼレンスキー氏に比べると、トランプ氏を怒らせなかっただけでも成功ではないかと思えるほどだ。
米国とウクライナの会談決裂を受け、欧州各国はウクライナ支援を継続し、和平実現の計画を策定する方針も確認した。欧州各国が仲介する形で米国とウクライナの関係修復が進むかも知れない。
外交でも個人の交際でも力関係やパワーバランスは歴然として存在している。外交で問われているのは個人のメンツではなく国益だ。米国とウクライナは早期に関係を修復し、停戦の実現を進めてほしい。