トランプ米大統領は「米国は日本を防衛しなければならないが、日本はわれわれを守る義務はない」「日本は大もうけしている」と述べ、日米安保条約への不満を表明した。
この直前には米国防総省幹部が、日本は防衛費を国内総生産(GDP)の3%に引き上げるべきと主張した。
トランプ氏の発言もあいまって、日本が防衛費を増額しない場合、米国は日米安保条約の義務を果たさないのではないかという見方が浮上した。
この光景には既視感がある。トランプ氏は過去の大統領選や1期目の政権でも、日米安保について似たような持論を繰り返してきたからだ。しかし当時、日米同盟に亀裂が生じるようなことはなかった。
1期目のトランプ政権を経験している私たちとしては、トランプ氏や米政権幹部の発言を直ちに真に受ける必要はないだろう。
トランプ氏の発言が、北大西洋条約機構(NATО)批判の文脈で持ち出されたことにも注意する必要がある。トランプ氏は、NATОが防衛費を増額しない場合、米国はNATОを守らないと明言した。日米安保条約だけに矛先を向けたわけではない。
トランプ政権はロシアとウクライナを早期停戦させることで欧州の安全保障体制から手を引き、中国の脅威への対処に注力したい意向ではないかとの分析がある。トランプ氏は停戦後のウクライナを巡る安全保障も、欧州が責任を持つべきとの認識を示した。
対中圧力を強化する際に重要なパートナーになるのは日本だ。トランプ氏と石破茂首相との会談がスムーズに終わったのも、石破首相個人との相性はともかく、トランプ氏が日米関係を重視している表れだろう。
日米首脳会談では、尖閣諸島(石垣市)について、日米安保条約に基づく防衛義務を確認した。
トランプ氏が日米安保を本心から疑問視しているなら、このような合意が継続されるはずはない。今回の発言も、奔放な言動で周囲を振り回す「トランプ流」と割り切っていいのではないか。
ただしトランプ氏の発言が、長年日本が続けてきた米国頼みの安全保障政策に対する警鐘であることは間違いない。
中国は2025年度も公称で7・2%増の国防費を計上したが、今後、日米同盟だけでは対処できないほど中国の脅威が強大化する可能性は排除できない。
またはトランプ氏の発言通り、日米安保条約の存在にもかかわらず、政治判断で有事の際に米国が来援しないか、来援が不十分なケースも有り得る。
いずれにせよ米国抜きでも領土や国民を死守できる体制も検討しないと、将来、足をすくわれかねないという不安がある。
トランプ氏の不規則発言はともかく、現在の国際情勢を見ると、特に沖縄や台湾周辺で日米が協力して抑止力を強化し、有事を起こさせないために、日米安保体制の意義は大きい。と同時に日本は日本として、米国頼みの体質から脱却する努力は続けなくてはならない。