宜野湾市で行われた開所式では、出席者から米軍基地跡地利用の「モデルケース」という言葉が何度も飛び交った。約15・5㌶の旧米軍キャンプ瑞慶覧西普天間住宅地区跡地(同市)が、琉球大学病院、同医学部の移転新築で「沖縄健康医療拠点」として生まれ変わったのだ。
▽全県民に恩恵
米軍基地の跡地利用と言えば、沖縄ライカムのような大型ショッピングセンターの誘致がすぐ思い浮かぶ。復帰後、沖縄本島では現在までに1万㌶以上の米軍基地が返還されており、跡地はほかにも公共施設、住宅地などとして活用されている事例がある。
だが従来の跡地利用は、波及効果が基本的に周辺地域にしか及ばない。ショッピングセンターであれば、利便性が高まるのは日常的に利用可能な沖縄本島住民に限られる。
沖縄健康医療拠点では、琉球大病院や同医学部が先端医療の研究や医療人材の育成を進める。
離島住民が高度医療を受けるには本島に渡航しなくてはならない現状は変わらない。しかし大学、病院の施設整備によって離島への医師派遣や遠隔医療の体制が拡充されれば、離島を含む全県民が恩恵を享受可能だ。
今後、宜野湾市では大学や病院と連携したまちづくりが進むはずだ。文字通りの「健康医療拠点」として、県民の健康づくりを支援する近代都市に成長することが期待される。
健康医療拠点だけではない。日米両政府が合意した嘉手納以南の米軍基地返還を見据え、沖縄の経済界は那覇空港、那覇港湾施設、牧港補給地区、普天間飛行場周辺エリアを「世界に開かれたゲートウェイ(玄関口)」として一体的に開発する「GW(ゲートウェイ)2050プロジェクト」を推進する。
健康医療拠点を跡地利用の「モデルケース」とするなら、こうした開発計画も基地が所在する沖縄本島の自治体や、大企業の声だけを反映させて終わりでは不十分だ。離島を含めた全県民にとって納得のいく跡地利用でなくてはならない。
だが現状では、そうした辺境地域の目線は置き去りにされている感が否めない。基地問題や跡地利用を他人事のように感じている離島住民にも責任はある。県民全体が当事者意識を持ち、沖縄の将来へ夢を描くことが大事だ。
▽知事と市長に温度差
沖縄健康医療拠点の開所式に出席するため来県した林芳正官房長官は、玉城デニー知事、佐喜真淳宜野湾市長と相次いで会談した。
玉城知事は米軍基地に派生する事件事故の被害を訴え、政府に改善を求めた。政府が九州地区に長射程ミサイルを先行配備する方針との報道を受け、県内配備に反対する意向も改めて表明した。
佐喜真市長は米軍基地返還の返還に向けた政府の努力を評価し、普天間飛行場の返還を見据えた跡地利用に政府の協力を要請した。
普天間飛行場の辺野古移設を巡り、反対する知事と容認する市長の温度差が、そのまま政府に対する立ち位置の違いとなって表れている。
普天間飛行場の跡地利用を模索する宜野湾市を未来志向とするなら、辺野古移設反対にこだわり、入り口論から抜け出せないのが沖縄県だ。
米軍基地返還の日米合意を円滑に実行し、跡地利用の議論を全県的に盛り上げるためには、国、県、市町村の連携が欠かせない。辺野古移設に反対する県のかたくなな姿勢は、改善されなくてはならない。