戦後80年の節目に合わせ、天皇ご一家が4日から沖縄を訪問される。この本はそれに先立つ102年前の1923年、裕仁皇太子殿下(のちの昭和天皇)が台湾を訪問された際の貴重な写真を収録し、台湾で出版された「東宮行啓」の日本版と解説で、昭和百年の記念出版。
百枚以上の写真からは、皇太子殿下を迎えた当時の台湾の光景や世情が読み取れる。2万5千人が参加したという提灯奉迎、殿下に披露された原住民の舞踊、歓迎のため各地に設置された奉迎門など、殿下の訪問に沸く住民の様子がうかがえる。
高雄のパイナップル畑では、巨大なパイナップルの模型が展示されていた。台湾製糖株式会社阿緱(あこう)工場の視察は当初「暑いから」という理由で工程から除外されていたが、殿下が「その暑い地の工場で働いている様子を見たい」と工場を工程に入れるよう指示されたというエピソードが紹介されている。
殿下の台湾訪問の写真は戦後、散逸していたが、台湾人の郭双富(かく・そうふ)氏、王佐榮(おう・さえい)氏が収集し「東宮行啓」として2019年に台湾で出版された。
「昭和天皇と感動の台湾」では2氏のインタビューも紹介され、王氏は「日本政府は、総督府を始め、学校や工場など多くの立派な建物を台湾に作りました」「皇太子は台湾各地を見て廻られました。学校や産業なんかも視察されていますが、これは、『日本の統治はこんなに成功していますよ』ということを世界にアピールする目的もありました」と解説する。
「東宮行啓」に収録された写真に写っている場所の百年後を、著者が実際に訪れて撮影した写真も掲載されている。天皇陛下の沖縄訪問を前に、改めて「行幸啓」の重みを考えさせられる。産経新聞出版刊。288ページ。定価2530円(税込み)。