初戦から全試合が3点差以内の接戦という粘り強さ、強豪校を次々と撃破するたくましさを思うと、決勝の大舞台も最初から負ける気はしなかった。第107回全国高等学校野球選手権大会決勝で沖縄尚学が日大三高を3対1で破り、夏の甲子園初優勝を成し遂げた。
県勢としては、甲子園では夏15年ぶり2回目、春も含め通算5回目の全国制覇となる。県民に感動と誇りを与えた活躍は見事だった。
エース末吉良丞は、初戦から大黒柱として前評判通りの剛腕を披露した。だが何と言っても優勝の原動力となったのは、大会前まで二番手ピッチャーとされていた新垣有絃の成長だ。
春の甲子園で、優勝した横浜に打ち込まれた悔しさをバネにスキルと精神力を鍛え上げた。夏は末吉と交互に先発、継投を任され、何度もチームのピンチを救って二枚看板の評価を確立した。
比嘉公也監督が大会前から最大の課題に挙げていた打線は、本番でも湿りがちな場面が多かった。物足りなさも感じたが、打者たちはここ一番で勝負強さを発揮した。
比嘉監督は沖尚の選手時代、エースとして1999年春の甲子園で県勢初優勝の立役者となり、指導者としても春、夏ともに頂点を経験することになった。
かつて甲子園で優勝することは県民の悲願だった。その意味で比嘉監督は、県民の夢を実現するために生まれてきたような稀有な存在かも知れない。
今大会では、いくつか心温まる場面もあった。3回戦で沖尚とタイブレークにもつれ込む激戦を演じた仙台育英の須江航監督は、試合後、沖尚の選手ら一人ひとりに「頑張れ」「優勝だよ」と声を掛けた。同校からは、沖尚への応援動画も送られてきた。
敗れてなお相手の健闘をたたえる姿は「グッドルーザー(良き敗者)」だと話題になった。
沖尚の主将、真喜志拓斗は母子家庭で育ったといい、決勝戦の日が母の誕生日に当たっていた。
優勝インタビューで、母に届ける言葉を促され「甲子園で優勝できる自分にまで育ててくれてありがとう」と感謝を口にした。テレビでは、息子の言葉に涙を流す母の姿も映し出された。
球児や指導者ら、多くの関係者がさまざまな人生を背負いながら、渾身の試合に凝縮させるドラマが甲子園なのだと改めて感じさせる。
県勢は2015年の興南による春夏連覇のあと、甲子園でなかなか勝てない時代が続いた。
だが今年は沖尚とエナジックスポーツの2校が春の甲子園に出場し、そろって初戦突破するなど、明るい兆しが見られた。沖尚の夏制覇で、沖縄の高校野球も完全復活を遂げた。
末吉、新垣の両投手はともに2年生で、新チームに残留する。沖尚は来春、そして来夏の甲子園連覇にも期待がかかる。
戦後80年の節目に、沖縄の球児が全国の頂点に立ったことも感慨深い。
凄惨な沖縄戦で県民、県土とも壊滅的な被害を受け、戦後も長い苦難の歴史を強いられた。平和だからこそスポーツを楽しむことができる。沖尚の快挙は、県民の平和への願いの結実である。