「匹夫(ひっぷ)の勇」―。一人の相手にいきり立ってけんかを仕掛けるような人間を、中国の古典「孟子」がこう表現している。自分一人のプライドのためではなく、万民の幸福のために立ち向かう勇気が真の勇気だという◆韓国が日本に対し、いきり立っている。慰安婦問題、徴用工問題、レーダー照射問題と、けんかの種は枚挙にいとまがない。一方で最大の脅威だったはずの北朝鮮には一転して友好ムードを醸成し、国防白書の最新版では「北朝鮮は主敵」との表現も消えた◆反日感情を煽ることで文在寅(ムン・ジェイン)政権の人気は高まるかも知れないが、韓国の安全保障環境は悪化し、国益は損なわれる。文大統領の姿は「匹夫の勇」そのものだ。結果として安倍晋三首相の今年の施政方針演説からは、対韓関係に対する言及が消えた。「もう韓国はまともに相手にしない」戦略にも見える◆その安倍首相は、北方領土をめぐってロシアとの困難な交渉に臨んでいる。強硬姿勢を示すロシアは日本側の要求に「ゼロ回答」。安倍政権の対ロ外交に対する内外の視線は厳しい◆首相はそれでも忍耐強くプーチン大統領と向き合う。今こそ国益のため「匹夫の勇」ではなく、真の勇気を体現する時だと信じているのかも知れない。