「犬神家の一族」などのミステリー小説で知られる作家、横溝正史は、自宅周辺を散策しながら作品の構想を練ったという。歩くことで思考が刺激されたり、活性化すると感じることは確かにある。独特の怪奇趣味や複雑な人間関係の描写で織りなす名作の数々は、頭脳と足の共同作業から生まれたのかも知れない◆ウォーキング愛好者は多い。石垣市で活動する総合型スポーツクラブ歩きニストの松島昭司会長は「車で通ると見えない路肩の植物などの景色が、歩くと見える。仲間と楽しく会話することもできる」とウォーキングの効用を説く◆歩くことは人間の最も基礎的な運動の一つでもある。一定以上、体重が増えてしまうと、膝への負担が重いランニングは躊躇(ちゅうちょ)してしまうが、ウォーキングなら、無理せずにできそう。人間は健康でなければしっかりした足取りで歩くことができない。ウォーキングは健康の証しであり、歩く楽しみは生きる喜びでもある◆だが、徳川家康の遺訓といわれる「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず」という言葉も真実だ。「一日一歩、三日で三歩」と歌う演歌もあった◆マイペースで先を目指すのが長続きのコツか。ゴールに向かって、きょうも一歩を進めたい。