米軍普天間飛行場の辺野古移設を阻止するため、翁長雄志知事が27日、辺野古沿岸の埋め立て承認撤回に向けた手続きに入ると表明した。政府と県の対立は再び激化する。辺野古移設問題をめぐる混乱を長引かせる無益な判断で、県民の厳しい批判は免れない。
翁長知事は2014年、辺野古移設反対を掲げて初当選し、翌年には仲井真弘多前知事による辺野古沿岸の埋め立て承認を取り消した。国と県は法廷闘争に入り、16年12月、最高裁判決で県の敗訴が確定した。
政治家として、知事が移設を阻止するという公約実現に邁進(まいしん)したことは理解できるが、三権分立のルールに照らせば、司法判断が出た時点で立ち止まるべきだった。政府は「最高裁判決の趣旨に従い、国と県が互いに協力して埋め立て工事を進めることが求められる」(菅義偉官房長官)と強調する。
「わが国は法治国家」とたびたび強調する菅氏の発言をかんがみれば、最高裁判決で国が敗れれば、安倍政権は辺野古移設を断念する覚悟だったはずだ。一方で翁長県政は最高裁判決に従い「承認取り消し」を取り消したものの、移設反対の姿勢そのものは変わらず、ついに「撤回」という最後のカードを切るに至った。司法制度に向き合うスタンスが政府とは異なり、自らの政治的主張を貫徹するため、ルールを軽視している印象は拭えない。
ただ反対派は「埋め立て承認取り消しと撤回は異なる手続きだ。最高裁判決を一律に適用できない」と政府に反論している。再び法廷闘争に突入する可能性が高い。撤回によって工事はいったん止まるが、政府が法的な対抗手段に出れば、短期間で再開されるとの見方も強い。
辺野古移設は普天間飛行場を抱える宜野湾市民の危険性除去が目的だったはずだが、基地反対派は「県内移設では負担軽減にならない」という論理を振りかざし、工事現場での座り込みなどの抗議行動を続けている。しかし、現在可能な解決策を一歩一歩実現し、積み重ねていく中に真の負担軽減がある。まずは宜野湾市民の安全安心を実現することが優先されるべきだ。
沖縄に軍事基地が存在する必要性と、軍事基地から派生する事件・事故への対応策は本来、別問題であり、分けて考えなくてはならない。翁長知事や反対派の主張は、両者を混同しているように見える。
翁長県政は発足後一貫して「辺野古に新基地は造らせない」と主張するが、沖縄を取り巻く国際環境や抑止力の必要性について深みがある議論に欠け、納得できない。撤回時期の判断は11月の知事選を意識している様子もうかがえ、反基地を標ぼうするメディアや、県民の反基地感情に迎合している印象さえある。いずれにせよ泥沼のような対立が今後も続くのは、残念な事態だ。