【視点】知事選、しぼむ離島振興の議論

 多数の離島を抱える沖縄県にとって、離島振興は「一丁目一番地の課題」とされてきたが、いざ全県規模の選挙となると離島の存在感は一気にしぼむ。今回の知事選も基地問題や経済問題の陰に隠れ、3候補が離島振興を巡って熱く論戦している印象は薄い。
 沖縄の人口は沖縄本島が圧倒的に多いため、基地問題を典型的な例として、県政はまず沖縄本島の課題解決から優先して着手する傾向にある。費用対効果を考えると、それはある意味当然のことだ。県庁職員が独断で離島だけに手厚い行政サービスを展開すれば、逆に本島住民から非難されることになるだろう。
 逆に言えば、県政トップの知事が「離島に光を当てる」という特別な思いを持ち、県庁職員に対し的確なリーダーシップを発揮しなければ、離島の課題は常に後回しになるリスクをはらむ。
 今回の知事選でも、3人の候補者が最優先で訴えている政策は米軍普天間飛行場の辺野古移設問題であり、沖縄全体の経済立て直しである。離島振興策は、5番目か6番目以降にようやく顔を出すような副次的な政策と位置付けられている。
 本土や沖縄本島の主要メディアも、知事選で離島振興を主要な「争点」と喧伝することは、ほぼない。そうした選挙のあり方自体が、離島住民にとっては不条理な状況であることを、まず私たち自身が自覚したい。
 離島振興に関し、3候補が訴えている内容はさまざまだ。
 下地幹郎氏は、船賃1000円、航空運賃5000円の定額制度導入、離島でもインターネットで高等教育を受けられる仕組みの構築などを掲げている。
 佐喜真淳氏は、離島の不利性解消に向け移動費や物価高・原油高への支援、離島振興を担当する副知事クラスの役職配置などを打ち出している。
 玉城デニー氏は、離島の農水産物ブランド化など、県策定の沖縄21世紀ビジョン基本計画に盛り込まれた離島振興策を着実に実施する方針を示している。
 離島を巡る問題は経済だけではない。離島を取り巻く安全保障環境も悪化の一途をたどっている。中国は尖閣諸島(石垣市)周辺の領海侵入を常態化させ、8月には台湾を包囲する演習の一環として、波照間島や与那国島の周辺に弾道ミサイルを撃ち込んだ。
 離島では台湾有事、尖閣有事への危機感が高まりつつあるが、安全保障問題というと辺野古移設の是非だけがクローズアップされる沖縄本島との温度差は大きい。今選挙でも3候補は辺野古移設問題で激論を展開しているが、台湾有事、尖閣有事への具体的な対応に言及する場面はほぼ皆無である。
 辺野古移設の是非に関しては、今選挙で下地氏が普天間飛行場の軍民共用化という新たな視点を打ち出したものの、2014年知事選以降、主要な県政、国政選挙では常に争点とされ、ほぼ議論は出尽くしたと言っていい。それより目前に迫る離島の危機にどう対処するのか、県民が真剣に自問すべき時期である。

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