岸田文雄首相は17日、中国の習近平国家主席とタイで会談した。尖閣諸島(石垣市)周辺海域で中国艦船が領海侵入を繰り返している問題への懸念を表明。台湾海峡の平和と安定の重要性も強調した。
日中が首脳レベルで意思疎通を重ね、不測の事態が起こらないよう努力することは大事だ。
だが日本政府が中国側の挑発や圧力を恐れ、いたずらに迎合する姿勢を見せてはいけない。民主主義国家として、自由と人権の擁護を訴えるという一線では、決して譲らない気骨を示すべきだ。
米国はこれまでも自由と人権の旗手であり、日本はともすれば、米国に追従しているだけという印象を与えることが多かった。
だが、どの国も自国の国益を第一とする以上、日本も米国にはしごを外される可能性がないとは言えない。日本は日本として、確固とした外交の背骨を持たなくてはならない。
中国紙の人民日報は、日中首脳会談を習氏とフィリピン・マルコス大統領の会談より格下の扱いで報じた。中国は米国を最大の競争相手として重視しているが、日本に関しては、外交的に東南アジア諸国並みの存在と位置づけているようだ。
だから中国が東南アジア諸国に対し、南シナ海で居丈高になっている姿は、そのまま尖閣周辺での中国艦船の振る舞いに重なる。
中国は首脳会談直前、尖閣周辺海域に過去最大級の機関砲らしきものを搭載した新たな艦船を送り込んだ。首脳会談に向け、日本側に圧力を掛けたとも受け取られる。
石垣市議会も首脳会談直前、防衛省や外務省などの関係省庁を訪れ、尖閣問題で毅然とした姿勢を求めた。だが、各省庁とも閣僚が対応することはなかった。
従来、市議会が尖閣問題で要請行動した際は、閣僚の対応も珍しくなかった。今回は単に日程の都合かも知れないが、うがった見方をすれば、首脳会談を前に、日本政府が中国側に配慮したようでもある。
首脳会談前のそれぞれの動きは、ある意味、日中の勢いの差を象徴しているとも言えるが、現状のままだと、後退に次ぐ後退を強いられるのは目に見えている。
中国、ロシア、北朝鮮といった権威主義的な国々に包囲された日本の隣に民主主義の台湾が存在することは、日本自身の安全にとって極めて重要だ。日中首脳会談と同時期、台湾に近い与那国で日米の共同演習が行われた意義は大きい。
日米が与那国島をはじめとする八重山諸島を守り、広い意味では台湾をも防衛するという確固たるメッセージを発することができたからだ。
一方、玉城デニー知事は、陸上自衛隊の戦闘車が与那国島の公道を走行したことを挙げ「訓練が実施されたのは誠に残念」とコメントした。
県は日米の共同訓練に反対しておらず、与那国空港の使用も許可した。知事が何を言いたいのか不明だが、支持基盤である基地反対派に配慮した発言と見ることができるだろう。