【視点】早期終息だけが破綻防ぐ道

 新型コロナウイルスの感染が全国で拡大する中、石垣市の中山義隆市長が、体調不良の症状がある人は来島を自粛するよう呼び掛けた。石垣市では現時点で感染者は出ていないが、大都市圏から安全安心な観光地を求めて来島する観光客が増えており、かえって市民の不安が高まっているためだ。
 市議会与党の「未来」会派は市長に対し、一日当たりの入域者数を制限し、八重山市町会で航空会社に要請することも求めた。石垣市は観光を基幹産業に、国内外から積極的な誘客を進めてきただけに、かなり思い切った提案と言える。
 中山市長の来島自粛呼び掛けは、「未来」会派が求めるように一般的な入域制限のような措置に踏み込んだものではなく、新型コロナウイルスに感染した疑いがある人だけを対象にしている。
 だが来島を予定している人にとっては、たとえ無症状者であっても、石垣島訪問を考え直す契機になるであろうことは想像に難くない。県内でこうした呼び掛けを行う自治体は恐らく初めてであり、ネット上でも速報されており、インパクトは大きい。
 最近の県内での感染事例は、どれも県外からのウイルス持ち込みが強く疑われている。感染源を完全に遮断するには、本土との人の往来を止めるほかない。
 玉城デニー知事は県民に対し、不要不急の県外旅行を自粛するよう促した。しかし県外の人たちに対しては「来県を自粛してほしい」とまでは言っていない。そこまで踏み込むと、観光業界への影響があまりにも大き過ぎるからだ。その意味で石垣市の呼び掛けは、実はかなり吹っ切れた決断であるように見える。
 市長の決断は妥当ではあるが、複雑な思いを持って受け止める人もいる。地元の観光関係者からは「自粛、自粛と言うが、それなら地域経済への支援策もセットで考えてほしい」と訴える声も上がっている。旅行や出張にせよ、イベントにせよ、単に自粛を求めれば済むという話ではなく、背後では死活問題に直面する多くの事業者がいる現実も認識しなくてはならない。
 その上で感染拡大を防ぐため、私たちが甘受できる経済的犠牲はどの程度が限界なのか、早い段階で冷静に考えてみることも必要だろう。国、県、市町村が手厚い経済対策を進めるべきは当然だが、行政があらゆる損失を補填することは不可能だ。国民一人ひとりが痛みを共有する意識を持つべきである。
 石垣市は、観光を取るか、市民の健康を取るか、ぎりぎりの選択を迫られている。「未来」会派の市議は「金儲けを取るか、命を取るかだ」と述べたが、その場合、命を守ることを最優先にするのは当然だ。だが経済を犠牲にしては、この島で暮らし続けることはできなくなる。結局、長い目で見れば、いずれか一つを選択することは不可能なのだ。
 私たちが目指すべきは、できる限り早期にウイルスの感染拡大を終息させ、経済的影響を最小限に抑えることに尽きる。感染拡大が長期的に続けば、市民が感染するのが先か、生活が破綻するのが先かという状況に陥ってしまう。待望される経済の「V字回復」は、あくまで感染の終息が前提だ。
 何度も繰り返される手洗いや消毒の励行にせよ、三つの「密」を避ける心構えにせよ、自分一人の身を守る手段に過ぎないと誤解し「自分は感染しても構わない」と投げやりになってしまうと何の意味もない。そうではなく「自分は絶対に感染源にならない」という決意の表れであり、現時点では、早期終息へ唯一可能な取り組みであることを再認識したい。

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