防衛省が沖縄の陸上自衛隊を増強する方向で検討している。尖閣諸島問題の緊迫化、台湾有事の可能性など、沖縄を取り巻く国際情勢を考えると妥当な判断だ。
県民からは米軍基地の縮小と負担軽減を求める声が強い。一方で沖縄が他国の軍事的脅威にさらされている現状を考えると、沖縄を守る抑止力の強化も進めなくてはならない。
一見矛盾するような政策を両立するためには、日本のシビリアンコントロール(文民統制)のもとにある自衛隊の強化が最善策だ。
防衛省は、具体的には那覇駐屯地の第15旅団を師団に相当する組織として大規模化する方針のようだ。現在の2000人規模かどの程度の規模に増強するかは調整中という。
奄美大島、宮古島、与那国島では次々と陸上自衛隊駐屯地が開設され、石垣島の駐屯地も来年3月までに開設される。離島の防衛体制拡充は、むろん中国の不穏な動きに対応するもので「地域の緊張を高める」などの批判は当たらない。
防衛力強化を検討した政府の有識者会議は、南西諸島、特に先島諸島の空港・港湾を自衛隊が円滑に活用するための体制整備を提言した。
訓練のための使用も含め、緊急時に自衛隊が空港・港湾を使用することには何の問題もない。住民生活への影響を最小限度に抑えながら、提言に沿った形で運用を進めてほしい。
自衛隊に対する複雑な県民感情を指摘する声も一部にある。
第二次大戦時には、沖縄に駐屯した日本軍が県民をスパイ視するなどして殺害した事件もあった。八重山でも日本軍が住民をマラリア有病地帯に追いやった「戦争マラリア」の被害が語り継がれている。
しかし現在の自衛隊を、旧日本軍と同一視することはできない。自衛隊は戦後、災害出動や不発弾処理、急患搬送などの活動を地道に積み重ね、県民生活の安定に大きく貢献してきた。
特に若い世代では、自衛隊に対する信頼感は飛躍的に高まっている。現時点で、既に自衛隊は県民に受け入れられた存在になっており、この流れが変わることは、もはやない。
ただ自衛隊の内部では最近、セクハラなどの不祥事も発覚している。自衛隊に限らず、どの組織でも起こり得る問題だが、徹底した原因究明や対策強化でうみを出し切り、より信頼される組織として体質を改善するほかない。
沖縄に駐留しながら、日本人にとってブラックボックスのような存在である米軍と違い、自衛隊が日本の法律のもとで運用されている意義は大きい。たとえば米軍基地の日米共用を促進することも、県民の基地負担軽減に資するだろう。
与那国島では、米海兵隊員が陸自駐屯地に入り、日米が共同で指揮所を設置する訓練が行われた。
多くの離島住民が台湾有事への不安を抱いている。日本が主体となり、米軍が補助的に参加する形で即応体制を構築することは、県民や離島住民の安心感につながる。