沖縄の新型コロナウイルス感染状況は、1カ月近く人口比で全国最悪が続いている。なぜここまで状況が悪化したのか、ファクト(事実)に基づく客観的な検証が必要だ。だが実際には、感染状況に関する肝心なデータがあやふやだったり、感染拡大の要因として、憶測ばかり広がっている傾向があるのが気がかりだ。
県が「重症患者」の基準適用を誤り、重症患者の数を過少に発表していたことが判明した。
国の基準では、重症患者か否かは「集中治療室(iCU)などに入っているか」「人工呼吸器などが必要な状態か」で判断している。しかし県は、iCUなどに入っている患者の一部を「中等症患者」に含んで計上していた。県担当者は「発表ミス」として陳謝した。
重症患者数は、医療体制の現状を確認する上で重要な指標の一つだ。今後は正確な数字の把握に努めてほしい。
ただ県は、その後も県独自の基準を適用した数値を、国の基準による数値と併用して発表している。県基準は医療現場の意見を反映しているからだという。
26日に発表された重症者数は、県基準だと12人、国基準だと27人になった。
気になるのは、両方の数字があまりにかけ離れていることだ。しかも県基準の数値を使った場合、医療機関の逼迫(ひっぱく)がやや改善されているように見え、県には都合のいい数字と言えなくもない。どれが実態を反映した数字なのか、よく分からない。
明確なのは、国基準であろうと県基準であろうと、沖縄の医療現場は抜き差しならない状況であるということだ。県内ではこのところ、連日のように死亡者が出ている。感染者数の増加はやむを得ないとしても、死者数を最小限に抑えることは至上命題なのだから、これは良くない兆候だ。
新規感染者数に関しては、最近は30人前後で推移しており、100人を超えることもあった一時期に比べれば改善したように見える。
だが、これも数字のマジックかも知れない。県が行政検査の数を絞っているからだ。新規感染者数が実際に減少に転じているかどうかは、県が毎日発表する数だけでは判断できなくなっている。
沖縄で感染が拡大した要因として当初指摘されたのは、在沖米軍の感染者が急増したことだった。米兵は通常の入国審査なしに来沖できる。沖縄は、世界最悪と言われる感染状況の米国と「基地のフェンス1枚を隔てているだけ」だと危機感が煽(あお)られた。
だが政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会メンバーの脇田隆字氏(国立感染症研究所長)は、沖縄で拡大しているウイルスが米軍ではなく東京由来であると明らかにした。
政府の観光支援事業「GО TОトラベル」が沖縄の感染拡大に拍車を掛けたとする批判も根強い。これに対して県の担当者は「GO TО」開始前から感染者が県内に入っており、現在の感染拡大は複合的な理由によるとの見解を示した。
米軍の新型コロナ対応は情けないの一言に尽きるし、「GO TО」を危惧する意見があるのも確かだ。だが、特に沖縄では、反基地などの政治的イデオロギーを絡めて感染拡大の原因を追究しようとする態度が目立つ。これは、とても科学的とは言えない。
感染拡大の発端が観光客だった可能性は高いが、その後のウイルス蔓延(まんえん)は県民の油断や、感染予防対策の不徹底が大きかったのではないか。特に現在の医療機関の逼迫は「第2波」に対する県の見通しの甘さにも大きな原因があるだろう。
玉城デニー知事は、感染拡大に歯止めを掛けるため、県民に徹底した生活様式の変容を求めた。最後は県民自身の意識が決め手なのである。
クラスター(感染者集団)の発生が相次ぐ沖縄本島と、ここまで何とか抑え込みに成功している離島の八重山との違いなども、この際、検証すべきかも知れない。