【視点】「辺野古」政争の具いつまで

 玉城デニー知事は25日、米軍普天間飛行場の移設先である名護市辺野古沿岸部の軟弱地盤を改良するため、沖縄防衛局が申請した設計変更を認めないと表明した。国、県が新たな法廷闘争に突入することは必至の情勢だ。
 玉城知事は設計変更申請について「地盤の安定性について最も重要な地点の調査がない。災害防止に十分に配慮がない」と主張。地盤改良工事についても「必要な試験を実施しておらず、合理的な説明がない。災害防止に関する十分な検討を行っていない」と述べ、環境保全対策も不十分だとした。
 移設予定海域にジュゴンが生息する可能性も危惧。行った調査は不十分だと指摘。地盤改良工事による環境への影響についても「適切に情報が収集されていない」と述べ、環境保全対策も不十分だと指摘した。
 不承認によって移設期間が長引き、普天間の危険性除去が遅れるとの指摘には「1日も早い危険性の除去は基地を使わないことだ」と訴えた。
 知事がこのタイミングで設計変更の不承認を表明したのは、来年の名護市長選や知事選をにらみ、辺野古移設の是非を選挙の争点に据えたい思惑もあると見られる。県政によって「辺野古」が政争の具に使われる状況はいつまで続くのか。県民としてやるせない思いだ。
 沖縄防衛局は辺野古沿岸部で見つかった軟弱地盤を改良するため、2020年4月、県に設計変更を申請した。地盤改良工事による工期延長で、普天間飛行場の返還は30年代にずれ込む見通しになっている。
 県は地盤改良工事の困難性や長期化を指摘するが、辺野古移設を阻止しても、それで普天間飛行場の撤去に向けた展望が開けるわけではない。
 沖縄周辺では尖閣諸島や台湾に対する中国の軍事的圧力が強まっており、日米同盟による抑止力の重要性は増している。こうした国際情勢下で、知事を支える「オール沖縄」勢力が訴える普天間飛行場の即時無条件撤去は現実性に乏しい。
 県民の基地負担を軽減するには、辺野古移設をはじめ日米で合意している政策を着実に進め、目に見える成果を出ながら次のステージに進むことが求められる。しかし、ほかならぬ県の抵抗で作業が停滞していることが大きな問題だ。
 23日には普天間飛行場所属のオスプレイが宜野湾市の民家に水筒を落下させる事故が起きた。
 米軍の軍規の緩みは言語道断だが、市街地の中に巨大な軍事基地が存在する現状に根本的な問題があることは明らかだ。移設をこれ以上停滞させることが県民の利益になるとは考えられない。
 新たな法廷闘争が始まれば、国と県の対立はさらに泥沼化の様相を呈する。基地問題と沖縄振興策はリンクしないというのが建前だが、このような状況下では、政府が県に政治的配慮を示すのも難しくなるだろう。振興策への悪影響もないとは言えない事態だ。
 衆院選では、名護市を抱える沖縄3区で自公が「オール沖縄」勢力を破った。辺野古移設の是非が大きな争点にならなかったことが勝因とされ、知事も移設反対の民意は変わらないとの認識を示している。
 だが辺野古が争点にならなくなりつつあること自体、沖縄にとっては一つの変化と言える。知事には大所高所から沖縄の未来を開く決断をしてほしかった。

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