【視点】イデオロギーより離島振興を

 玉城デニー知事は2023年度所信表明演説で「県経済と県民生活の再生」「子ども・若者・女性支援施策の充実」「辺野古新基地建設反対・米軍基地問題」の3点を重点的に取り組む大項目として掲げた。
 八重山住民にとっての関心事は離島振興だが、所信表明を聞く限り、離島については通り一遍の言及にとどまった感が否めない。特に離島医療がそうだ。
 今年に入って八重山の透析医療体制の危機が大きく報道され、離島が抱える深刻な医療人材不足がクローズアップされた。その中で県立八重山病院と県病院事業局との意見の齟齬(そご)が浮き彫りになり、知事自らが記者会見で、コミュニケーション不足を認めた。
 その影響なのか、県病院事業局は新年度から局長が交代することになり「事実上の更迭」という報道もある。だが局長一人の問題で終わらせていいわけはない。
 県は新年度の人事異動で医療スタッフ増派を決め、透析医療の件は一応の決着を見たが、それはあくまで対症療法に過ぎない。離島の医療人材不足は慢性病だ。県と地元が連携し、抜本的な解決策を模索しなくてはならない。
 だが知事は所信表明で、離島医療について「救急・災害時を含む離島医療提供体制の構築」に取り組むと述べただけだった。離島医療の現状に関し、県がどこまで問題意識を持っているのか分からない。
 所信表明で離島に関して述べた部分は、離島医療も含め、すべてがこの調子で、目新しさがない。
 知事が「県民の先頭に立つ」とまで言い切る辺野古移設問題との熱量の差は歴然としているが、離島振興は、県庁職員のルーティンワークでは進められない。トップ自らが「離島に政治の光を当てる」という強い決意を示して初めて実現するものだ。
 離島住民は「オール沖縄」を含めた政治家の口から「離島振興なくして沖縄振興なし」という言葉を何度となく聞かされてきた。その意味では、知事が示す「重点的に取り組む大項目」に本来「離島振興」が入っていてもおかしくはない。
 離島住民が懸念するのは「オール沖縄」県政のもと、県が辺野古移設問題をはじめとする米軍基地問題に注力する余り、米軍基地のない離島への関心が薄れてしまってはいないかという点だ。
 県政の中心に、常に「辺野古」が存在するという現状は、その意味で正常ではない。
 今回の所信表明でも辺野古移設反対が大きく掲げられているが、この問題を巡る政府と県の対立は、2014年に翁長雄志前知事が当選して以来、10年目に突入する。だがこの10年の苦闘で、沖縄が何を得たのか、離島住民には判然としない。
 離島振興を進めるためにも、県にはイデオロギー偏重をやめ、冷静に足元を見つめ直す姿勢が求められるのではないか。

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