新型コロナウイルスの感染症法の位置づけが5類に変更され、全国の老人介護施設では、入所者と家族の面会制限が解除されるケースも出てきた。テレビのニュースでは、久々に面会した祖母に孫娘が抱きつき、感極まって涙ぐむシーンが流れていた◆この家族のことはもちろん全く知らない。だが、孫娘が祖母からたっぷり愛情を注がれて育ったであろうことは、その涙から伝わる。きっと2人で、楽しい思い出をたくさん作ってきたのだろう。「愛情は、注いだぶんだけ返ってくる」と実感した◆近年は何でも経済が優先され、子育てすら「負担」とみなされている。いわく「子育ての出費が大きすぎる」「子育ては女性の社会進出の障害だ」「女性だけに子育てが押し付けられている」◆国民からは国に対し、若い夫婦が共働きできるよう保育士の数をうんと増やし、育休をもっと認め、子育てに伴うあらゆる出費を無償化せよ―などと、山のような注文が沸き起こる◆国が「負担軽減」を進めるべきなのは当然だ。だが、少子化対策の声高な要求を聞いていると、愛情が経済的な損得に換算される社会になってしまったかのような違和感が残る。何の打算もなく孫娘をかわいがった祖母も、今や消えゆく「古き良き日本」の姿なのかも知れない。