玉城デニー知事が9月にもスイス・ジュネーブで国連人権理事会に出席し、米軍基地問題を訴える見通しになっている。これに対し「知事は国連を政治利用すべきではない」と指摘するのが、2017年、国連で沖縄の基地反対派に反論する活動に携わった経験を持つ農業の依田啓示さん(49)=東村=だ。知事の言動が日米両政府と沖縄の間の不信感を助長し、ひいては国際社会で沖縄への誤解を拡散する可能性を懸念する。
国連人権理事会では15年に翁長雄志知事(当時)、17年に基地反対派の山城博治・沖縄平和運動センター議長(同)が演説し、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設反対を訴えた。これに対抗し、沖縄の民意が移設反対だけではないことを訴えようと、名護市民の我那覇真子さんが15年、17年とも国連人権理事会に出向き、演説で反論。依田さんは17年、我那覇さんの通訳や演説作成のサポート役としてスイスに同行した。ハワイでの留学経験で培った英語力が生きた。
当時の国連人権理事会を振り返った依田さんは「極左団体のメンバーなどが盛んに国連で演説しており、自分たちの主張を権威付けしようとしていると感じた」と話す。「国連で演説したことで、良くも悪くも国際的な認知を受けたことを演出できる。そして自分たちの主張を国連の場から自国に『逆輸入』し、国民に発信しようとする戦略だ」と解説する。
翁長前知事らに続き、玉城知事も同じ戦略に打って出ようとしていることに危機感を抱く依田さん。「紛争があるとすれば相手方と協議すべきで、無関係の他国を巻き込んで米軍基地問題をアピールする姿勢は、日米両政府の不信感を招く。問題解決を遠ざけるだけだ」と話す。
玉城知事が国連で発信する内容によっては、沖縄の将来が危うくなる可能性があると批判。「知事が移設反対を強調するあまり『沖縄が日本政府に弾圧されている』『沖縄の自主性を回復すべき』などというメッセージを出すと、中国が沖縄に介入する誘い水になりかねない。ロシアも『ウクライナのロシア系住民を守る』という口実でウクライナに侵略した」とくぎを刺す。
依田さんは有限会社カナンおきなわの代表として、本島北部で牧場を営む。今月沖縄に来襲した台風6号では、牧場にも被害が出た。「沖縄本島では停電や断水が長引き、離島では物流が止まり食品が品薄になるなどの影響が出た。だが対策に当たるべき知事のリーダーシップが見えなかった。知事は国連に行くより先に、沖縄でやるべきことがあるのではないか」。