岸田文雄首相は施政方針演説で「『経済の再生』が岸田政権の最大の使命」と改めて強調した。現在、日本が直面している最大の課題が経済の停滞であることは疑う余地がない。力強い経済の復活に向け、政権だけでなく民間も含めて全力を挙げる必要がある。
かつて世界第2位の経済大国として隆盛を誇った当時に比べ、現在の日本経済を見渡して気づくのは、世界をけん引するような先端技術がほとんど見られなくなったことだ。家庭にあるテレビ、レコーダー、オーディオ、冷蔵庫、洗濯機などといった身近な家電製品を眺めても、日本製は意外なほど少ないことに気づく。
日本製は高品質で壊れにくいことが売りだったが、コストダウンの技術がなければ価格競争で海外製に競り負ける。「品質はいいが海外製に比べ高い」という一般的なイメージから脱却できないのが日本製の現在地ではないか。
日本の技術力の「顔」とも言える自動車産業は2023年、トヨタのグループ世界販売実績が4年連続で世界一になった。だが国レベルで見ると、23年の自動車輸出台数は中国が初の世界一となり、日本は7年ぶりに首位から陥落した。
自動車産業の関係者からは、少数精鋭の日本企業に対し、中国企業は圧倒的な物量と人海戦術で主導権を握りつつあるという話を聞く。
日本は今後とも少数精鋭の態勢に磨きをかけるほかない。だが少子高齢化が進めば、日本の技術力を支えている人材の基盤そのものが危うくなる。国際競争を勝ち抜くには、学歴偏重や世襲といった因習を打破する人材登用のあり方を、社会全体で考えなくてはならない。
首相は施政方針演説で「『科学技術創造立国』を令和においても真に実現するため、長期的ビジョンを持った国家戦略を策定する」と述べた。具体性のある計画の策定に早急に取り組んでもらいたい。
沖縄は新型コロナウイルスの影響から徐々に脱し、観光地のにぎわいも戻り始めた。ただ多くの県民の雇用を支えている中小・零細企業の苦境は変わらない。
岸田政権は物価高を上回る賃上げの実現を掲げ、春季労使交渉でもそれに呼応する動きが広がっているというが、中小・零細企業までその恩恵が及んでいるとはいまだ言い難い。
まして沖縄や、その離島ともなると、ほとんどの企業で賃上げや可処分所得の上昇は望むべくもない状況だ。離島はただでさえコスト高で、物価高騰の悪影響は住民生活や企業経営を根底から破壊しかねないほどの勢いだ。
都市部の経済効果を徐々に地方へ波及させていくのもいいが、まずは地方を念頭に、地方の活性化に重点を置いた政策もそれに劣らず重要である。首相は「地方創生なくして日本の発展はない」と力説したが、具体策に関しては、あまりに言葉足らずだ。「辺境」の存在こそ日本を下支えしているという意識を共有してほしい。
安倍晋三元首相の施政方針演説では、沖縄の観光インフラ整備に関する文脈で石垣市や石垣牛といったワードが使われ、地元住民の話題になったこともあった。安倍氏の沖縄、八重山に対する思い入れも伝わった。
岸田首相の施政方針演説で沖縄に関しては、防衛力の抜本的強化に関する項目で、米軍普天間飛行場の辺野古移設推進と沖縄経済強化への支援が一般論として述べられているだけだ。
岸田首相が沖縄をどう思っているのかよく分からないが、辺野古移設を巡る岸田政権と玉城デニー県政の距離感のようなものが感じられなくもない。
沖縄を取り巻く安全保障環境は厳しさを増す一方だが、辺野古移設反対に固執する県政サイドには、そうした問題意識が欠如している。沖縄の経済振興には国との連携が不可欠であり、辺野古移設をいつまでも「のどに刺さったトゲ」のままにしておくべきではない。