【視点】与那国町長の訴え 傾聴に値する

 与那国町の糸数健一町長は3日、東京都内で開かれた憲法改正を求めるフォーラムで登壇し、日本最西端にある「国防最前線の島」としての立場から、防衛力強化を訴えた。
 「台湾有事」の懸念が高まる中、中国が実際に侵略行為を開始すれば、台湾とわずか111㌔の与那国島は、まともに火の粉をかぶりかねない地理的環境にある。当事者である町民の声は貴重であり、糸数氏の発言は傾聴に値する。
 糸数氏は、武力行使であれ平和的統一であれ「台湾が中国に併合されてしまうということは、台湾海峡問題が実は与那国海峡問題になってしまうということだ」と指摘した。
 台湾が中国共産党の支配下に入れば、八重山の島々は、強権的な軍事超大国の支配圏と直接的に接することになる。
 そうなれば八重山住民は子々孫々に至るまで、中国の軍事力に脅かされることになり、未来永劫、枕を高くして寝ることはできない。それは先の大戦以来、沖縄県民が一貫して希求してきた平和が失われることも意味する。
 県民が台湾問題を他人事のように考えてはいけない本質的な理由は、糸数氏の発言を聞けばよく理解できる。
 糸数氏は、国の交戦権を「認めない」としている憲法9条を改正し「認める」よう求めた。
 「自衛隊法、海上保安庁の改正と両組織のシームレスな運営、連携」「尖閣諸島守備、台湾有事の対応、地震、津波、台風など自然災害対応にも即応可能な、強く、しなやかで、美しい憲法の制定」も提言した。いずれも憲法や現在の法体系で課題とされているポイントだ。
 「全国民がいつでも、日本の平和を脅かす国家に対しては、一戦を交える覚悟が今、問われているのではないでしょうか」という発言もあった。
 これは補足が必要かも知れない。糸数氏は戦争すべきだと言っているのではなく、国を守る心構えを語っているからだ。
 個人のレベルであっても、家族の命や財産を守るためであれば、悪と戦う覚悟を持つべきなのは当然だ。自民党の麻生太郎副総裁が台湾で「戦う覚悟」に言及したのも、そうした文脈による。
 憲法9条の「交戦権」に関する改正案も含め、好戦的な意図から出ているわけではなく、侵略に対抗するための自衛権保持を明確にすべきという趣旨である。ことさらにセンセーショナルな話ではない。
 中国の歯止めなき軍事力増強で、沖縄、とりわけ八重山を取り巻く国際環境は厳しさを増している。政府は有事の際、住民が避難できるシェルターの整備を、先島諸島から優先的に進める方針だ。
 糸数氏の訴えは、八重山が置かれている状況を直截的に示している。安全地帯の本土や、米軍基地問題が第一という沖縄本島の感覚だけで安易に批評はできない。
 発言を虚心坦懐に受け止め、どうすれば今後も八重山の平和を守り続けられるか、真剣な議論の契機とすることが望まれる。

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