米大統領選は11月5日の投票まで2カ月足らずに迫った。中国の軍事的台頭、ロシアのウクライナ侵攻、ガザの紛争と国際情勢が緊張度を増す中、民主主義陣営のリーダーである米国の動向は世界に大きな影響を与える。国内外から大きな注目を浴びている選挙だ。 今月10日には民主党候補のハリス副大統領と共和党候補のトランプ前大統領が初のテレビ討論を行った。
ハリス氏は住宅購入の補助やスタートアップ企業に対する減税などを打ち出し、中間層重視の政策を掲げた。トランプ氏は現政権下で進むインフレを批判し、対中関税の強化や同盟国に対する応分負担の要求などを訴えた。
通常、こうした討論は野党候補が現政権側の候補を厳しく追及するのが常だが、ハリス氏はまるで自らが挑戦者であるかのように「世界中の指導者がトランプ氏を笑っている」「民主主義の脅威」などと激しくトランプ氏を攻撃した。
トランプ氏も「私が大統領ならウクライナ侵攻やガザの紛争は起きなかった」「ハンガリーの首相は、中国、北朝鮮、ロシアはトランプを恐れていると言った」などとやり返した。政策論争というより、罵倒合戦という感じで、超大国の大統領選にしては中身が薄かった。
司会者からウクライナ侵攻をどう収拾させるか問われ、トランプ氏は「ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領に電話する」と交渉による早期決着を目指す考えを示した。ハリスは「50カ国をウクライナ支援でまとめる体制をつくったのは私だ」とウクライナ支援の強化を示唆した。
討論中の両者のしぐさからも、候補者の人間性がかいま見える。有権者が大統領としての品格の有無を判定する材料とされる。
トランプ氏は厳しい表情をほぼ変えず、まっすぐカメラに向かって話し続けた。対照的にハリス氏は発言するトランプ氏に何度も視線を向け、軽べつするような表情をあらわにした。
トランプ氏が「移民が住民のペットを食べている」と発言し、司会者から事実と異なると指摘されたことが討論会後の報道で大きくクローズアップされた。そのため、他の重要な論点がかすんでしまったことは残念だ。
両者の罵倒合戦を見ていると「どっちもどっち」の感が強い。世界が混迷の度を深める中、誰が大統領になっても、魔法のように事態を改善させることはできないはずだ。
トランプ氏は2度目の討論を否定しており、今回の討論が唯一の直接対決になる可能性が高い。世論調査ではハリス氏優勢とされ、日本の報道でもハリス氏への期待が高いが、討論の印象では、言われているほど優秀な候補者とは感じない。トランプ氏の大統領らしからぬ破天荒さは相変わらずだ。
この2人を見ていると、日米同盟を外交の基軸としてきた日本としても、いつまでも「米国頼み」一辺倒を続けるわけにはいかないと感じる。ただ沖縄の米軍基地問題に関しては、誰が当選しても米国の基本政策は変わらないと見てよさそうだ。
米大統領選では、投票直前に何かが起きるという「オクトーバー・サプライス」という言葉もある。経済、ウクライナ、台湾など、不安定要素は多い。結果は軽々に予測しづらい。