米軍は5月30日から、F22最新鋭ステルス戦闘機を嘉手納基地に暫定配備した。配備期間は約1カ月で、計14機だという。今月開催に向け調整が進む米朝首脳会談をにらんだ動きとみられる。朝鮮半島の非核化を目指す米国の世界戦略で、沖縄の基地が重要な役割を担っていることを改めて示した。
5月22日に名護市の米軍キャンプ・シュワブで行われた大規模な砲撃演習も関連した動きのようだ。また、米海軍横須賀基地(神奈川県)に配備されている原子力空母ロナルド・レーガンが5月29日、周辺海域の警戒任務に当たる長期航海のため同基地を出港した。
米朝首脳会談は6月12日の開催に向け、改めて調整が進んでいるが、日本が最重要課題に掲げる拉致問題などの進展は不透明で、北朝鮮の具体的な行動を促すため、圧力の維持が不可欠となる。
ここへ来て、トランプ大統領は北朝鮮に「最大限の圧力という言葉は使いたくない」と発言したが、同氏一流の交渉術の一環だろう。軍事力の裏付けがなければ、北朝鮮から望むような譲歩は引き出せない。北朝鮮情勢が改善に向かっているとして、最近、沖縄の米軍基地不要論が一部で出ているが、むしろ重要性は増しているのであり、見当違いだ。
しかし、今回の暫定配備による地元住民との摩擦も発生している。沖縄市、北谷町、嘉手納町で組織する「米軍嘉手納飛行場に関する三市町連絡協議会」(会長・桑江朝千夫沖縄市長)は、配備の連絡遅れなどを問題視し、米軍や沖縄防衛局に抗議する動きを見せている。
事柄の性質上、米軍機の配備は機密を要する場合も想定され、連絡遅れをもって直ちに「住民軽視」と批判すべきではない。しかし配備による騒音の増加など、住民生活のリスクが増している現状も放置できない。日米両政府には可能な限りの配慮が求められる。
同時に、県民の側としても北朝鮮情勢で日本が置かれている立場を理解したい。
北朝鮮情勢と在沖米軍基地の動きは密接に関連している。米国は自らの軍事力を背景に、東アジアの平和と安定を実現しようとしている。現時点の日本には、米国の世界戦略に協力して自国の安全を保つ以外の選択肢がない。いわば「米国製」の平和ではあるが、現在の東アジアを見渡せば、それ以外に「北朝鮮製」「中国製」の平和が有り得ないことは自明だ。
日本独力では北朝鮮の脅威に立ち向かえず、拉致問題を解決する手段も限られ、直接交渉のテーブルにつくこともできない。北朝鮮と渡り合える軍事力がなければ、交渉相手とみなされないからだ。
日本国内にも北朝鮮との直接的な「話し合い」を主張する意見があるが、何の外交的成果も期待できない話し合いなど無意味だろう。南北首脳会談に狂喜する韓国のように、手玉に取られて終わる危険性が大きい。
逆説的ではあるが、米国の世界戦略に同調しながら、自前の防衛力を充実する努力を続ける以外に、米国依存を脱却する道は見当たらない。その先に「日本製」の平和を目指せる日が来るか、日本国民、とりわけ安全保障問題に最前線に立つ沖縄県民が深く考えてみるべき問題だろう。