【視点】陸自配備受け入れ 当然の決断

 淡々とやるべきことをやった。18日、石垣島への陸上自衛隊配備計画を事実上受け入れる最終判断を発表した中山義隆市長の記者会見は、そうした印象だった。「英断」などと持ち上げられては、市長も面はゆいのではないか。市民の生命や財産を守ることに責任を持つ市長の立場としては、陸自配備への協力は当然の決断だ。むしろ2015年11月に防衛省から配備の正式打診を受けて以来、16年12月の「配備手手続き開始の了承」を挟み、2年以上も最終的な回答を保留してきたことに賛否が割れるだろう。いずれにせよ協力体制の構築を発表した以上、石垣市はスムーズに配備が実現できるよう全力を尽くしてほしい。

 陸自配備の必要性を市民に最も分かりやすく示している出来事は、石垣市の行政区域である尖閣諸島をめぐる国際情勢だ。尖閣周辺では、中国公船が日本の領海を踏み荒らす光景が日常化している。尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲であり、今のところ中国が軍事力に訴える可能性は低いが、将来的に国際情勢がどう変わるかはわからない。問われているのは自国を自力で守る意思であり、自衛隊配備はその意思を内外に宣言するものだ。

 中国の経済規模は2010年に日本を逆転し、その軍事力も世界有数の規模を誇る。過剰なまでの自信が尖閣諸島や南シナ海に対する領土的野心や、他国への挑発的な言動につながっているのではないか。独裁体制を築いた習近平国家主席は、周辺諸国にとっては威圧的でしかない「中華民族の偉大な復興」をスローガンに掲げており、中国の膨張的な動きは今後も長期間続く可能性が高い。好むと好まざるとに関わらず、八重山が中国の脅威に対する最前線であることは明らかだ。

 自衛隊が配備されると標的になるという懸念の声もあるが、いったん戦争ともなれば、配備の有無を問わず一つの島や地域だけ安全でいられることはない。戦争を起こさないための備えこそ必要であり、それが「抑止力」という広く認められた概念でもある。

 中山市長は配備受け入れの理由として、防衛体制とともに防災体制の構築も挙げた。今や大規模災害の救援や復旧活動に自衛隊の存在は欠かせない。八重山は考古学的な研究で太古から津波の常襲地帯であることが判明している。1771年に襲来した「明和の大津波」から約250年経過し、改めて防災意識の高揚が叫ばれている時でもある。万一の事態の際、島に自衛隊が常駐していることは心強い。

 ただ駐屯地の受け入れは住民にとって初めての経験であり、防衛省に対しては、さまざまな不安に真摯に対応する姿勢が求められることは言うまでもない。説明責任を丁寧に果たし、住民との信頼関係を築くことが何より大事である。

 駐屯地建設予定地の約半分は市有地であり、約23㌶を占める。中山市長は、防衛省から申請があれば売却を市議会に諮る考えを示したが、その市議会は9月に改選を控える。改選後の与野党の勢力図によっては、陸自配備問題は今後もさらに尾を引く可能性がある。陸自配備は市民の安全安心にとどまらず、日本の安全保障に関わっており、この問題で長期にわたる市政の混乱は避けたい。

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