【視点】平和外交には抑止力必要

 日本政府が2012年9月11日に石垣市の尖閣諸島を国有化してから今年で10年になった。中国政府は、国有化を口実に尖閣周辺海域への艦船派遣と領海侵入を常態化させたため、地元漁船の操業が日常的に妨害される深刻な状況となっている。
 中国が本気で日本の領土を奪いに来ていることは明白だ。パフォーマンスは10年も続かない。
 中国は台湾に対しても同様の手を使っている。8月にはペロシ米下院議長の訪台を奇貨として、台湾を囲む大規模な軍事訓練に踏み切り、中台の「中間線」を超えた戦闘機の進入を常態化させようとしている。
 竹富町、与那国町の周辺海域にも初めて弾道ミサイルを撃ち込み、日本を威嚇する姿勢も鮮明にした。
 尖閣国有化もそうだったが、相手方の何らかの動きを口実に、事態を一気にエスカレートさせるのが中国の常とう手段であることが分かる。
 時間は中国に味方している。経済力や軍事力を強大化させ、21世紀の覇権国を目指す中国に対し、日本は経済成長や技術革新が止まり、少子高齢化と人口減少も進んでいる。国力の差は開く一方だ。
 尖閣周辺では海保の巡視船が連日、中国艦船と対峙しながら領海を守り抜いている。だが2021年時点で海保が保有する千㌧級以上の巡視船は70隻なのに対し、中国海警局が保有する千㌧級以上の船舶は132隻に達している。日本は物量でも劣勢だ。
 中国が「最後の一手」である軍事力投入をためらっているのは、日本の領土防衛義務を定めた日米安保条約と、沖縄に駐留する米軍の存在である可能性が高い。
 中国は尖閣諸島を「台湾の付属島嶼(とうしょ)」と位置付けているため、台湾有事は尖閣有事に転化する可能性も高い。中国が尖閣に軍事力を投入するタイミングは、尖閣侵攻と同時期になるかも知れない。
 事態を悪化させないための平和外交が求められるのはもちろんだが、外交の実効性を担保するのは確固とした抑止力の存在だ。岸田文雄政権が防衛費の増額や敵基地攻撃能力(反撃能力)保有検討を進めているのは当然である。
 石垣島では来年3月までに陸上自衛隊駐屯地の開設が予定されており、国境を守る体制が強化されることは心強い。
 死去した安倍晋三元首相は核共有の可能性を議論するよう提言した。軍事超大国に成長した中国に対抗するには、タブーを取り払った防衛論議が望まれる。
 尖閣諸島を抱える石垣市の立場では、現地への標柱設置要請や尖閣海域で獲れた魚のブランド化など、自治体や住民レベルでできることを着実に実行してほしい。
 政府は標柱設置のための上陸を認めていない。実際上も、上陸の可否は政府がその時の国際情勢に応じて判断するべきものだ。
 政府の判断はどうあれ、地元自治体がこうした運動を粘り強く推進することに意義がある。地元が声を上げず、国民の尖閣諸島に対する関心が低下すれば、それこそ中国の思うつぼだからだ。

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