肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染者が県内で3人となった。最初の2人はクルーズ船の乗客と接触したタクシー運転手だったが、20日発表された3人目の患者は乗客との接点が分かっていない。県保健医療部の砂川靖部長は、感染源が不明な「市中感染」が始まった可能性について「否定できない」と述べた。沖縄での感染拡大は新たな段階に入ったと言える。
全国各地でイベントの自粛が相次いでおり、石垣市でも日に開催予定だった「石垣島オーシャンビュートレイル&ランウォーク」が中止になった。
厚生労働省は20日、イベント開催の是非について、主催者が「感染拡大の防止という観点から、感染の広がり、会場の状況等を踏まえ、開催の必要性を改めて検討してほしい」と呼び掛けた。現時点で、政府として一律の自粛要請は行わない。
市中感染が広がり始めた場合、いつどこで、誰が感染してもおかしくない状況になる。特に現在は感染拡大の初期の段階といわれるだけに、中止が可能なイベントは開催の是非を再検討すべきだ。
患者が乗船していたクルーズ船が那覇港に寄港し、乗客2679人が下船したと見られるのは1日。患者3人はいずれも5日から6日にかけて最初の症状が現れており、1日にウイルスが拡散された可能性が濃厚だ。
県は感染者が立ち寄った観光施設に対し、自主的に従業員の体調を記録し、マスク着用、手洗い徹底、消毒を指導したという。
しかし患者の中には発症後に一般の医療機関を受診したことが判明している人もいる。県ハイヤー・タクシー協会が作成したクルーズ船乗客との接触者のリストに、感染が確認された2人は入っておらず、砂川部長は「危機感が足りないのではないか」と苦言を呈した。
初期の防疫体制がザルのようになっていた状況を見ると、今後は二次感染や三次感染の患者が出る可能性に備えなくてはならない。
国や県は繰り返し、かぜのような症状がある場合は学校や仕事を休むこと、手洗いやせきエチケットを徹底することなど、個々人でできる感染予防策の励行を呼び掛けている。人ごみを避ける努力もしたほうがいい。市中感染の可能性が濃厚になった以上、自分の身は自分で守る意識が必要だ。
沖縄は中小零細企業が多く、社員に一人でも感染が確認された場合、営業を継続できなくなり、企業全体が壊滅的な打撃をこうむる可能性も否定できない。企業の経済的打撃に備えた行政の支援制度拡充も喫緊の課題だ。
一般財団法人南西地域産業活性化センターは19日、新型肺炎による訪日中国人が県経済に及ぼす影響の試算を発表した。
感染拡大への影響が約半年続き、訪日中国人が19年の約4割となる30万人減少した場合は138億円程度、中国客だけでなく、国内客や他の外国客にも影響して観光客が50万人減少した場合は281億円程度、観光収入が減少すると見込んだ。国税、地方税も19~38億円程度減少し、国や自治体の財政も直撃する。
消費増税による経済の落ち込みに加え、新型肺炎の影響も加われば、日本経済にはダブルパンチとなる。特に観光を基幹産業とする沖縄は非常に厳しい局面に立たされる。
ダメージを最小限に抑えるためにも、感染拡大をスローダウンさせなくてはならない。