【視点】少子化、戦争に匹敵する惨禍

 少子化や人口減少の進行は、戦後日本が直面する最大の国難かも知れない。日本の将来を支える有為の若者たちが大量に失われるという意味では戦争の惨禍と何ら変わらないが、こちらは静かに、しかも着実に日本の屋台骨をむしばんでいく。
 昨年の推計出生数は過去最少の86万4000に人にとどまった。前年に比べ約5万4000人の減少で、米国が60~70年代に戦ったベトナム戦争の死者に匹敵する人口が失われたということだ。
 1人の女性が生涯に産む子どもの数を指す合計得出生率は2018年で1・42に低下した。単純計算すると2を下回れば人口は減り続けるので、このままだと理論上、日本民族は滅亡することになるが、それより先の当面の問題として、近い将来、人口の1億人割れが現実味を帯びる。
 政府は5月29日、今後5年間の少子化施策の指針となる「第4次少子化社会対策大綱」を閣議決定した。昨年の推計出生数について「86万ショック」と呼ぶべき状況だと指摘。「出生数の減少は予想を上回るペース」と危機感をあらわにした。
 大綱では、若い世代が希望通りの数の子どもを持てる「希望出生率1・8」の実現に向け、望む時期に結婚や子育てができる社会にすることを基本的な目標とした。
 経済的な支援策では(1)不妊治療にかかる費用負担の軽減(2)子どもの数や年齢に応じた児童手当の充実(3)大学など高等教育無償化制度の中間所得層への拡充(4)育休中に支払われる給付金の在り方―などを検討するよう提言した。具体的な政策として目に見える形で実行されることを望みたい。
 人口減少に関しては、元米在沖海兵隊幹部のロバート・エルドリッヂ氏が「人口減少と自衛隊」(扶桑社刊)という著書を発表するなど、安全保障面の悪影響に警鐘を鳴らしている。「人口が少なくなれば税収が減り、防衛予算は必然的に縮小する。自衛隊の兵力維持も不可能になり、国防そのものができなくなる」と見る。
 日本が直面する国際環境は厳しさを増すばかりだ。経済力、軍事力では世界最大の米国に次ぎ、中国もアジアで頭一つ抜けた存在になっている。日本は今後、同盟国米国と、隣国に出現する新興の超大国中国の間で、生き残りを模索しなくてはならない。自前の経済力や軍事力が低下する一方では、取り得る選択肢も限られてくるだろう。
 先進国の座にとどまり続けられるかも問われるだろうし、中サイズの国として、国際社会で存在感を維持することにも苦心する。
 急激な少子化の背景には、日本人自身の価値観の変化も挙げられるかも知れない。それは子育てを保育施設に全面依存する社会の到来である。
 子育て支援策として、全国の自治体が待機児童ゼロを目指すのは当然だ。だが、これだけ多くの父親や母親が、保育施設に子どもを預けなければ生活を維持できない現状をどう見ればいいのか。
 かつて子だくさんが普通だった時代には、両親が祖父母に子どもを預けたり、年長の子どもが弟や妹の世話をした。隣近所の人たちが子どもの面倒を見ることもあった。女性は専業主婦でなくても、家庭の中で子どもを守り育てる基本的な責任を持ったが、こうした考え方は、今では通用しないものとされている。
 女性のライフスタイルの変化、核家族化、人間関係の希薄化も少子化に拍車を掛けている。

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