昭和の時代に戻った錯覚を覚えた。訪中した公明党の代表がジャイアントパンダの貸与を要請したというニュースだ。東日本大震災被災地のニーズを汲んだというから批判しづらいが、いまどき、だれが「国民感情を和らげる効果」をパンダに期待しているのか。対応した政治局常務委員も「友情を育む重要な役割を果たしている」と前向きだそうだが、連日、石垣市の庭先を横行する国の幹部がよく言ったものだ▼今の動物園には「動物の福祉」を優先させる考えが根付いている。かつては、動物がケージに閉じ込められていたが、今は動物本来の動き、能力を見せる「行動展示」が主流だ。北海道旭川市の旭山動物園には珍獣がいない。オランウータンが鉄塔をわたる様子や、ホッキョクグマの圧巻のダイブ、まるで空を飛ぶようなペンギンの泳ぎ、円柱水槽を縦に泳いで、人間を見つめるアザラシの人懐こさが魅了し、入場者数が上野動物園を上回ったことも記憶に新しい▼1972年、日中国交正常化とともにパンダが2頭やってきた。このときは、2時間並んで、見れるのは数秒だった。だが、今はどこからでもネットを通じて観察できる。パンダに関する情報も豊富だ。珍獣としての色合いが薄まるゆえ、「パンダ外交」という言葉も聞かなくなり、愛くるしい風貌が政治利用されることも減っていたのではなかったか▼決まって、のちに問題となるのは高額なレンタル料だ。一般的に年間1億円で10年契約といわれている。復興作業が進む被災地で、この金額を負担することに疑問は出ないのか。もはやパンダが日中関係のバロメーターなどとされ、政治利用される必要は全くない。