石垣市の尖閣諸島周辺海域で、8月28日以来、中国公船の領海侵入や日本漁船への威嚇行為が途絶えている。菅義偉政権発足以降の領海侵入は今月10日現在でゼロ。専門家は、日米の対中圧力が奏功しているとの見方を示し「菅政権や米国の対応を慎重に見極めているのではないか」と分析する。一方、中国公船は領海外側の接続水域での航行は継続しており、尖閣の領有権主張で一歩も引かない構えは崩していない。
中国公船が直近で最後に領海侵入したのは8月28日で、安倍晋三前首相が辞任表明した日だった。中国公船は7月に5回、8月に3回、領海侵入を繰り返していたが、菅政権が発足した9月の領海侵入はなかった。単月で領海侵入がゼロだったのは2018年12月以来。
9月以降は日本漁船への威嚇行為も見られていない。与那国町所属の漁船「瑞宝丸」は尖閣海域に出漁するたび、中国公船に接近・追尾されており、中国公船が直近で最後に領海侵入した8月28日も、大正島の東約22㌔で同様の威嚇行為を受けた。
しかし、9月1日から2日間、魚釣島や大正島周辺で漁をした際には、中国公船は姿を現さなかった。
金城和司船長(48)は「これまでで一番楽な漁。中国公船はレーダーに映っていたが、位置はかなり遠かった。たまたま出くわさなかっただけかも知れないが、意図は分からない」と話した。周辺で瑞宝丸を警護していた海上保安庁の巡視船からも、中国公船の接近を警告する連絡はなかった。
ただ、尖閣周辺の接続水域での中国公船の航行は10日で34日連続に達した。中国政府は、尖閣領有権を主張する専門サイトに「デジタル博物館」を開設するなど、対外的な強気を維持している。
東海大海洋学部の山田吉彦教授は「菅内閣は岸信夫防衛相など、中国に対し厳しいスタンスの布陣になった。中国は、日本の政権交代後の様子を慎重に見極めている」と指摘。「中国は『米軍は出てこない』と高をくくっていたが、米軍と自衛隊は8月に沖縄周辺で共同訓練を行った。それも中国の歯止めになっている」との見方を示す。
尖閣情勢の今後に関しては「米トランプ政権が中国に強硬なので、中国は日本を刺激しないようにしている。だが大統領選で民主党のバイデン氏が当選すれば、情勢が変わる可能性がある」と予測した。