来日した中国の王毅国務委員兼外相が、石垣市の尖閣諸島について中国の領有権を主張し、周辺海域で操業する日本漁船への威嚇行為を正当化した。日中友好に水を差す発言であり、許し難い。石垣市議会は抗議決議することを決めたが、尖閣諸島を行政区域とする地元自治体として当然だ。
王氏は日中外相会談後の記者会見で「一部の真相が分かっていない日本漁船が釣魚島(尖閣諸島の中国名)周辺の敏感な水域に入る事態が発生しており、中国側としてはやむを得ず、非常的な反応をしなければならない」と述べた。
尖閣周辺海域では、出漁してきた日本漁船が中国公船「海警」から追尾・接近される事態が続発している。王氏の発言は、中国政府が日本漁船の動きに神経を尖らせていることを示すものだ。
石垣島から尖閣諸島までの距離は遠く、小さな漁船だと片道で一晩かかる。悪天候であれば漁を断念して引き返さなくてはならない。
尖閣周辺海域は豊かな漁場ではあるが、燃料代などを考えるとコストが引き合わないケースもある。加えて中国公船が「パトロール」と称して徘徊(はいかい)している現状では、尖閣周辺への出漁には二の足を踏む漁業者が多い。
だが、それこそ中国政府の思うつぼではないか。日本の漁業者が自由に操業し、収益を上げることができる海域であればこそ、日本の実効支配を国際社会に示すことができるからだ。
多くの漁業者が自発的に尖閣海域に向かうことができる状況にしたい。国や自治体はそうした漁業者を後押しすべきだし、尖閣周辺海域で獲れた魚のブランド化も積極的に進めるべきだ。
中国政府はメンツを重んじる。尖閣国有化のように、日本政府が前面に出て尖閣の実効支配を強化する行動に出れば、激しく反発する。だが自治体や民間の活動に対しては、極端な対抗措置を取るには至らないと思われる。中国政府がわざわざ出ていくほどの対等な相手とはみなしていないからだ。
日本側としては尖閣諸島の実効支配を強化する必要があるが、日中関係の改善も進めなくてはならない。そのジレンマを打開するカギが、自治体や民間レベルで活動を活発化させることだ。尖閣海域での日本漁船の操業も、民間ができる活動の一環である。
石垣市で講演した元在沖海兵隊幹部のロバート・D・エルドリッヂ氏は、市に尖閣諸島資料館を整備することを提案した。財源は、東京都が尖閣諸島を購入しようとした際に集まった約14億円の寄付金だ。
石垣市が事業主体になり、寄付金を活用して尖閣諸島資料館を整備すれば、日本政府が直接的に関与しない形で尖閣領有権をアピールできる。これに対し、中国政府は脅し以上のことはできないはずだ。寄付金は東京都で「塩漬け状態」になっているが、寄付者の善意を形にするための方策を早急に模索しなくてはならない。
王氏の言動からは、中国政府が、尖閣諸島を守ろうとする自治体や民間の活動に懸念を募らせていることが読み取れる。だからこそ今が積極的に声を上げる好機だ。
沖縄がこれまで以上に主体的に尖閣諸島の情報発信に取り組み、さらには香港や新疆ウイグル自治区などの人権問題を追及し、台湾との連携強化を叫べば、尖閣を狙う中国に対する確実な牽制(けんせい)になる。玉城デニー知事にも、そのような意識を持ってほしい。日本政府に過大な期待ができないからこそ、沖縄の自治体や県民の立ち位置が問われている。