石垣市の行政区域である尖閣諸島を巡って漂う不穏な空気は、今年もやみそうにない。中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会会議は、尖閣周辺海域や南シナ海を航行している中国海警局に武器使用を認める海警法を可決、成立させた。
尖閣周辺海域には八重山からも漁業者が出漁している。これまでも中国海警局の艦船は「パトロール」と称して漁船に接近するなどの威嚇行為を繰り返してきたが、海警法の成立で、いっそう脅威が高まる。八重山住民の生命にかかわる重大な問題だ。中国による海警法の制定は、日中間の摩擦をいたずらに激化させる悪質な挑発行為と言わざるを得ない。
尖閣諸島には日本側が設置した灯台があるほか、字名を「登野城尖閣」に変更した石垣市は、字名を明記した標柱を島々に設置したい考えを示している。しかし海警法では、島に外国が設けた建造物を強制的に取り壊せると規定しており、日本側を牽制(けんせい)した形だ。そもそも、日本の主権侵害であることは言うまでもない。
改めて感じるのは、尖閣侵奪に対する中国の本気度だ。中国船が昨年、尖閣周辺で航行した日数は300日を超え、領海侵入も常態化した。八重山の漁船への接近も頻発している。
尖閣に対する中国のやり方は、近年の台湾への姿勢にも通じるものがあると言えよう。26日付産経新聞によると、中国紙・人民日報系の環球時報は、中国軍用機が頻繁に台湾に飛来している現状について「既に常態化した」「いずれは台湾の上空を飛ぶだろう」と社説で強調した。中国がいずれ、同じことを尖閣諸島に対しても言い出すであろうことは想像に難くない。
日本としては引き続き、外交的、さらには軍事的手段も含めて領土防衛を強化しなくてはならない。菅義偉首相とバイデン米大統領の初めてとなる日米首脳会談では、尖閣諸島が米国の防衛義務を定めた日米安保条約の範囲内であることなどを確認した。米国の揺るぎない意志を確認できたことは、ひとまずは外交的成果だろう。
だが米政権に対し、繰り返し尖閣防衛への関与を求める日本政府の態度は、米国の保証なしには領土保全さえままならない深刻な現状の裏返しだ。米国の加勢は確かに心強いが、将来にわたって米国のパワーが圧倒的であり続ける保証はない。
中国の経済力は20年代のうちに米国を抜くという予想もあり、中国軍幹部は、米国以上の軍事力保有を目標とする考えを示している。中国が米国をしのぐ世界一の超大国に躍進した時、尖閣はどうなっているだろうか。日本には、そこまでの覚悟はあるだろうか。
環球時報は昨年9月の社説で「日本はもはや大きな脅威ではない」と指摘しており、米国の盛衰が尖閣情勢に直結している状況だ。こうした現実も踏まえ、日本は尖閣防衛に長期的な戦略を立てて臨む必要がある。
20世紀は民主主義国家である米国の世紀だった。そのため日本では、民主主義国家は一般的に、独裁国家より強いというイメージがある。
だがソ連やナチス・ドイツ、今世紀の中国を見れば分かる通り、独裁体制下であっても国家は強大化し、繁栄することができる。中国はソ連やナチスの失敗に学んでいるだろうし、既に日中の国力バランスが大きく中国優位に傾いている現状は、21世紀が民主主義にとって試練の世紀になるであろうことを暗示している。
民主主義国家日本の領土である尖閣諸島が独裁国家中国に奪い取られれるようなことがあれば、それは21世紀における自由や民主主義の敗北を象徴する出来事になる。今や尖閣は、自由と独裁の戦場と言っていい。