石垣市の尖閣諸島周辺海域で、日本漁船が中国海警局船の接近、追尾を受ける事態が常態化している。複数の漁業者の証言によると、海警局船は2020年を境に、尖閣周辺から日本漁船を完全排除するための行動を展開している模様だ。通常、海警局船2隻で日本漁船1隻を挟み撃ちにしている。
日本漁船に対する中国公船の威嚇行為は2012年の日本政府による尖閣国有化後から始まった。ただ尖閣周辺で長年漁業活動している石垣市議の仲間均氏(71)によると、ここ数年、中国公船は日本漁船を遠巻きにして近づいてこないこともあり、行動は一定していなかった。
しかし昨年以降、仲間氏が乗船した「鶴丸」は出漁のたびに海警局船から接近、追尾などの威嚇行為を受けるようになった。他の漁業者も海警局船の操業妨害が激化したのは「昨年から」と証言する。
海警局船が領海外側にある接続水域で航行した日数は2020年、過去最多の333日に達し、尖閣周辺での「常駐体制」がほぼ構築された。
中国は同年を境に、尖閣周辺で自国のプレゼンスを誇示する段階から、日本漁船の完全排除を目指す体制へと歩を進めた可能性が高い。海警局船に武器使用を認める「海警法」も今年2月から施行された。
毎年冬に宮古島から尖閣周辺に出漁するという伊良部漁業所属の漁業者、久高明人さん(60)=宮古島市=によると、海警局船は通常4隻で、2隻ずつのチームを組み、それぞれ違う海域で日本漁船を待ち構えているという。日本漁船を発見した場合、2隻で漁船1隻を挟み撃ちにして追尾する。
今年2月、日本漁船2隻が尖閣周辺に出漁した際には、海警局船2チームが別々の海域で漁船2隻を同時追尾する「連携プレー」も披露した。
久高さんは「中国は日本の漁船を尖閣に寄せつけないようにして、実効支配を奪うつもりだろう。漁師が行かないと『尖閣は中国のもの』という既成事実ができてしまう」と危惧。「僕も(尖閣に)頑張って行こうと思っている」と語る。
現在、尖閣周辺に漁船が出漁する際は、海上保安庁が漁船周辺に巡視船を配置し、漁業者の安全を確保している。
昨年来日した中国の王毅外相は、尖閣周辺に出漁する日本漁船を「偽装漁船」と呼び、出漁させないよう日本側に要求した。
しかし中国外相の発言以前から、尖閣周辺に出漁する漁業者は減少。海警局船の操業妨害が激化してからは、長年行っていた出漁を取りやめる漁業者も出ている。時間の経過と共に、中国が有利になる流れが強まりかねない情勢だ。