【視点】名護市長選 移設が「県益」に

 米軍普天間飛行場の移設先、名護市の市長選が23日投開票され、移設を進める岸田政権に支援された現職、渡具知武豊氏が移設反対の新人を破って再選を果たした。渡具知氏は移設の賛否に言及していないが、今後の移設作業進展に向け、再選は好材料となる。
 日本の外交や安全保障に関わる問題が一自治体の選挙で争点になる事態は、本来は不幸なことと言わなくてはならない。そうした問題は国政選挙のテーマになるべきだからだ。
 だが米軍基地を抱え、膨張する中国への最前線に立たされた沖縄では、県民は否応なしにそうした問題に直面し、選択を迫られてきた。
 今選挙でも辺野古移設の是非が争点の一つになったが、渡具知氏は移設問題への言及を避け、子育て支援や福祉など、市民生活に密着した問題を訴えてきた。理由を「県と国が裁判を繰り返している中で、推移を見守る。それ以上のことを首長ができるのか」と説明した。賢明な判断であり、市民も渡具知氏の姿勢を支持した。
 渡具知氏が米軍再編交付金を活用した子育て支援策を展開したことも市民の高い評価を得た。相手候補も同様の政策を約束したが、渡具知氏ほど明確に財源確保の根拠を示せなかった。
 米軍基地の存在を巡って沖縄は常に二分されてきたが、沖縄に抑止力の存在が必要であることは明白だ。石垣市の行政区域である尖閣諸島周辺の状況を見ても、中国の振る舞いは度を越えている。
 一方で、県民にいつまでも過重な基地負担を背負わせ続けることは許されない。普天間飛行場の早期撤去へ明確な道筋をつけるべきで、その意味で、辺野古移設が結局は「県益」につながることになる。岸田政権は名護市民の重い決断を受け止め、普天間飛行場の危険性除去に向けた作業を加速させるべきだ。
 名護市長選は沖縄の「選挙イヤー」の幕開けとなる選挙で、昨年の衆院選と同様、自公と玉城デニー知事を支援する「オール沖縄」勢力が激突する構図だった。「オール沖縄」勢力は衆院選では2勝2敗に終わったのに続き、名護市だけでなく南城市の市長選でも敗れ、退潮傾向が鮮明になった。
 長引く新型コロナウイルス禍で県経済が低迷する中、県民は基地問題を訴える「オール沖縄」勢力より、生活向上に重点を置く自公の政策に目を向けつつある。衆院選、名護市、南城市の市長選はすべて、有権者のこうした傾向を表していると言っていい。
 秋には「天王山」となる知事選が控えている。2月27日の石垣市長選も知事選の前哨戦であり、今後を占う上で重要な戦いになる。

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