【視点】テロ続発は民主主義の自殺

 岸田文雄首相が衆院和歌山1区補選の応援で訪れていた和歌山市で、24歳の男が首相を狙って爆発物のようなものを投げ付ける事件が起きた。首相は無事で、集まった人々にも大きなけがはなかったが、破壊力のある爆弾が爆発していれば大惨事となる恐れもあった。卑劣なテロ行為を断固非難する。
 昨年7月には、参院選で街頭演説していた安倍晋三元首相が銃撃される事件が起きた。要人を狙うテロ事件が続発する世相は、日本の「安全神話」にひびが入り始めていることを意味する。憂慮せざるを得ない。
 安倍氏銃撃事件の際は、背景に容疑者の統一教会への恨みがあることが報道され、政治家と統一教会の関係に焦点が当たった。統一教会と「接点」があった政治家への非難が、テロへの非難を上回るという異常な状況が生まれた。
 安倍氏の国葬に対する反対運動が激化する中、一部メディアでは容疑者への同情的な論調が見られたり、容疑者を英雄視するような映画が制作されたりした。「安倍氏銃撃の動機はあくまで容疑者個人の恨みなのだから、民主主義への挑戦ではないし、テロとも呼べない」という極端な主張も堂々と展開された。
 安倍氏が影響力の大きい政治家だっただけに「安倍氏を倒す」という目的が手段を正当化し、テロを容認するような風潮が生まれたことは否定できない。それは第二、第三の事件の呼び水になったと言えよう。
 安倍氏銃撃事件の直後には、沖縄県知事選で運動中の自民党推薦候補に対し、基地反対派の女が米軍の遺棄物である薬きょうを投げ付ける事件が起きた。女は米軍基地問題のアピールを事件の動機に挙げた。政治家や候補者を襲うことが自らの政治的主張に役立つと判断したという意味では、安倍氏の事件に触発された可能性もある。
 そして今回の事件である。容疑者の動機はまだ明らかではないが、国を相手取った裁判を起こしていたことなどが報道されている。どのような動機であるにせよ、テロを持ち上げるような風潮が再燃すれば、この国の安全は根本から脅かされる。
 中国のように言論の自由がない独裁国家では、テロ対策を名目に多くの国民の人権が抑圧されている。
 一方、民主主義社会の日本で、広く有権者の支持を得るために活動している最中の政治家を襲撃する行為は、文字通り民主主義の自殺にほかならない。
 独裁国家は「民主主義制度は独裁より劣る」という宣伝に利用するだろうし、日本国内でも、政治家や候補者と有権者の距離がますます開く結果を招く。相次ぐテロ事件は、単に日本の治安悪化を実感させるだけではない。私たちの先人が苦難の末に獲得した自由をも喪失させかねない暴挙であることを、肝に銘じるべきだ。

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