少子化が加速している。厚生労働省が発表した2022年の人口動態統計では、女性一人が一生に産む子どもの推定人数である合計特殊出生率が1・26となり、過去最低の水準と並んだ。
このまま子どもの数が減少すれば日本の人口も縮小する。それに伴って経済的な活力が低下すれば、将来にわたって日本人が豊かな生活を維持できるかどうか黄信号がともる。日本の国際的な地位にも影響するだろう。
日本が経済的に衰退しつつあるのは誰の目にも明らかだが、その流れを決定づけかねないのが少子化だ。
岸田文雄政権は「異次元の少子化対策」実現に向けた「こども未来戦略方針」案を策定した。2030年までが少子化傾向を反転させるラストチャンスと期限を区切り、30年代初頭までに、国の予算、または子ども一人当たりで見た予算の倍増を目指す方針を示した。
具体的な施策としては第3子以降を3万円とするなどの児童手当の拡充、出産費用の保険適用導入などの経済的負担軽減、奨学金充実など高等教育費の負担軽減を挙げた。保護者の就労要件を問わず、時間単位などで柔軟に利用できる「こども誰でも通園制度(仮称)」も創設する。
財源に関しては年末までに結論を出すとしたが「財源確保を目的とした増税は行わない」と明記した。
岸田首相は1日の子ども未来戦略会議で、3兆円規模の少子化対策を前倒しして実行すると表明。子ども・子育て関係予算は、子ども一人当たりの家族関係支出で見てOECD(経済協力開発機構)トップ水準のスウェーデンに達する水準となり「画期的に前進する」と強調した。
増税で国民に新たな負担を強いれば少子化対策の効果も減殺されることになる。増税しない方針を明記したのは妥当だ。方針案にもあるように、歳出削減などの努力を重ねながら、国債を活用して財源を捻出するのが現実的だろう。あとは、ずらりと並べた施策を実行に移せるかが課題である。
少子化がここまで進んだのは、活発な結婚や出産が期待されていた「ベビーブーマー世代」が就職氷河期に遭遇し、結婚適齢期に経済的困難に陥ったことが大きい。
だが「今の生活が楽しければよい」「社会的な責任より自分の趣味が優先」などという若者たちが増え、家族を持ったり、子育てすることを人生の負担と考える個人主義的な風潮が広がり始めたことも背景にあるだろう。
家族を養うため、がむしゃらに働くのを当然と考え「猛烈社員」と呼ばれつつ日本の高度成長期を支えた「団塊の世代」のような価値観は、過去のものになりつつあると感じる。
少子化は日本以外の先進国でも進行しており、それは経済的に豊かになった国の宿命のようでもある。それだけに日本は、時代の流れに逆らうような難しい取り組みを迫られる。