【視点】知事訪中「外交」に値せず

玉城デニー知事が日本国際貿易促進協会のメンバーと訪中し、李強首相と面会した。中国艦船が石垣市の尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返し、地元の漁業者を脅かしていることが日中間の大きな問題になっているが、知事が尖閣に言及することはなかった。面会後、報道陣に「特に尖閣についての話は出なかったので、私からもあえて何か言及することもなかった」と説明した。
尖閣問題だけでなく、県民が今、最も心配している「台湾有事」への不安についても、知事は一言も触れなかったようだ。
今回の訪中は、玉城知事がアジアの平和構築のために進める「独自外交」の一環だ。しかし県民の大きな懸念材料となっている問題を提起することなく素通りし、耳当たりのいい交流の話だけして帰ってくるのは「外交」と呼ぶに値しないのではないか。
あくまで友好だけを強調する場であり、尖閣問題などを持ち出すことはそぐわなかったと言うなら、そもそも訪中などしないほうがいい。
地元の石垣市からは「尖閣問題について主張しなかったということは、相手の主張を認めたということになる」という批判の声が上がっている。訪中して尖閣や台湾に一言も触れないという姿勢自体が、中国政府に迎合していると受け取られても仕方がない。
知事は報道陣に対し「尖閣問題については、政府の方針を踏襲する立場」とも述べた。政府の方針を引用するのではなく、尖閣諸島が沖縄県の一部であり、石垣市の行政区域であることを自らの口で明言すべきだ。こうした発言にも尖閣問題に対する当事者意識の欠如がうかがえる。
中国は台湾に対する軍事的圧力を強め、恫喝的な姿勢をあらわにしている。そのため台湾に近い沖縄では「戦争に巻き込まれるのでは」という不安がかつてなく高まっている。知事は中国首相に対し、そうした県民の声を率直に伝え、覇権的な行動を慎むようたしなめるべきだった。
自治体が独自外交を進め、世界各国と地域間交流を深めること自体は悪いことではない。だが今回の相手国である中国は、沖縄との間に深刻な懸案を抱えている。そこが他の国との付き合いとは違うところだ。李首相に直行便の回復だけ要請して会談を終えた知事は、中国政府に直言する絶好のチャンスを逸したように見える。
玉城知事の訪中直前には、習近平国家主席が「琉球」について言及したことが中国共産党機関紙「人民日報」の一面で報じられた。そのことをきっかけに、中国国内で沖縄は元来、日本ではないという報道が活発化しているという。
一方、玉城知事と李首相が直接、会話を交わす機会を与えられたことが中国側の「沖縄重視」の表れという見方もある。
玉城知事は現在、米軍基地問題で日本政府との対立を深めており、中国側の「厚遇」が沖縄と本土の分断工作である可能性も否定できない。真の平和構築は一筋縄ではいかないことを県は自覚し、独自外交のあり方を再考すべきだ。

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