【視点】中国との交流 政治的リスク大きい

 日本政府による東京電力福島第1原発処理水の海洋放出計画に反発する中国政府が、今月から日本産の輸入海産物に対する全面的な放射線検査を始めた。このため現地の日系企業が輸入した大量の水産物が中国の税関で留め置かれ、1億円の被害が出る恐れがあるという。
 日本政府は、まだ処理水の海洋放出を実行に移していない。にもかかわらず故意に日本産水産物の輸出を妨害するような行為に出るのは、政治的な嫌がらせ以外の何物でもない。
 日本政府は中国政府に対し、専門家や実務者レベルによる「協議の場」設置を提案しているが、中国は応じていない。そもそも理性的な話し合いさえ拒否する態度である。
 林芳正外相が14日、中国外交トップの王毅共産党政治局員と会談した際、王氏は記念撮影のため行われた冒頭の林氏との握手を3秒ほどで打ち切り、報道陣に手を振って撮影を中止するよう求めたという。これも外交上、非礼な態度ではないか。
 中国は日本の水産物の主要輸出先で、輸入規制は水産業界への大打撃となる。世界の歴史を振り返れば、貿易の規制は、時に規制対象となった国の死活問題に発展することもあり、たびたび戦争の原因にもなってきた。
 中国は仮に戦争の危険があっても、日本との衝突を恐れないという姿勢を強くアピールしているとも言える。私たちは、それを大国の傲慢さと受け取る。
 処理水問題に限らず、沖縄県民の大きな関心事である尖閣諸島問題でも、中国の振る舞いは何一つ変わらない。尖閣周辺では相変わらず中国艦船が常駐し、領海侵入や周辺の日本漁船への威嚇を繰り返している。沖縄の目前にある台湾周辺でも、中国軍機の中間線を超えた軍事活動が常態化している。
 悲惨な戦争体験を持つ沖縄県民は切実に平和を希求しているが、中国側からは、それに応じようとする姿勢が全く感じられない。私たちに見えるのは、米国に次ぐ世界2位の経済力と軍事力を手にしたことで勢いに乗り、周辺国を力任せに押しつぶそうとする野心だけである。つまり、この国は遅れてきた帝国主義国家にほかならない。
 玉城デニー知事は今月訪中し、李強首相に沖縄と中国の直行便再開を要請した。しかし、仮に中国と沖縄の交流が活発化したり、沖縄を訪れる中国人観光客が増えても、中国政府が沖縄を政治利用する懸念は拭えない。
 日中の政治的対立が深刻化すれば、中国側が故意に観光客数を絞り、沖縄に経済的打撃を与えることも十分有り得る。処理水問題を巡る一連の対応を見れば、中国が信頼すべき交渉相手にはなり得ないことは明らかだ。中国との交流は、沖縄にとって政治的リスクがあまりに大きい。玉城県政の「独自外交」は浅慮が目立つ。
 直行便の再開自体は悪いことではないが、県民としては、落とし穴の存在を慎重に見極める必要がある。

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