北朝鮮が事実上の長距離弾道ミサイル発射に向けた動きを見せていることを受け、浜田靖一防衛相が破壊措置準備命令を出し、石垣島や与那国島などで空自の地対艦誘導弾パトリオット(PAC3)展開が慌ただしく進んでいる。
北朝鮮ミサイルは南西諸島上空を通過する可能性があると見られる。PAC3は、ミサイルの破片などが落下する不測の事態が起きた場合、地上から迎撃するための装備だ。石垣島でのPAC3展開は2012年、16年に次いで3回目、与那国島では初めてとなる。
北朝鮮のミサイルは16年、先島諸島の上空を通過した。防衛相の破壊措置準備命令やPAC3の展開は、離島住民の安全を守るため当然の対応だ。自衛隊は万全の体制で臨んでほしい。
16年に石垣島でPAC3が展開された際は、サザンゲートブリッジ先にある埋め立て地の南ぬ浜町に部隊が配置された。石垣島では3月に陸自の石垣駐屯地が開設されており、今回、PAC3の部隊配置は、南ぬ浜町と駐屯地内のいずれかで検討されているという。
八重山では近年、台湾有事に対する懸念が急速に高まっている。PAC3の展開は有事に備え、自衛隊の部隊を離島に迅速に移動させる訓練としての意義も大きい。
自衛隊は輸送のため沖縄本島の港湾使用を県に申請したが、民間船舶の予約が先に入っているため使用を断られるなどのトラブルが生じている。
北朝鮮のミサイル発射までに装備や部隊の配置が間に合うのか。今後の運用も見据え、関係自治体も含めて柔軟に対応できる体制が望まれる。
沖縄周辺では中国の軍事的脅威が現実のものとなりつつあるが、今回は北朝鮮の存在が不気味にクローズアップされている。16年のミサイル発射について防衛政策に詳しい識者は「沖縄本島の上空を狙うと米軍を刺激するので、米軍のいない先島諸島を狙ったのではないか」と推測した。
現在は石垣島にも自衛隊が常駐しているが、いずれにせよ八重山や宮古の上空が、北朝鮮にとってミサイルを気兼ねなく発射できる空域と見られているのであれば、住民としては噴飯ものだ。
昨年には台湾周辺で軍事演習を行った中国が、日本のEEZ(排他的経済水域)を含む波照間島や与那国島周辺にミサイルを撃ち込んだ。尖閣諸島周辺海域での艦船常駐や領海侵入も含め、八重山周辺は他国に蹂躙されている状況と言っていいのではないか。
中国や北朝鮮といった独裁国家は自国民の人権を弾圧し、周辺国家の平和への願いも無視する。これが独裁国家に囲まれた日本の現状であり、防衛の最前線となった八重山の現在地である。
PAC3展開に対し、石垣市の中山義隆市長、与那国町の糸数健一町長はいずれも協力する姿勢を示している。日本最西端の町の首長として、糸数町長はPAC3の常駐も求めている。国境離島住民が抱く切実な危機感を、国は真剣に受け止めるべきだ。