玉城デニー知事がスイス・ジュネーブで開かれた国連人権理事会に出席し、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設反対を訴える演説を行ったあと、中国の検索サイト「百度百科」で演説と「琉球独立」を関連づける記事が頻繁にヒットするようになり「中国政府の主導で、沖縄独立を支持する国内の世論工作が始まったのではないか」という見方が出ている。「百度百科」で長年、沖縄に関するトピックを検索している一般社団法人日本沖縄政策研究フォーラム理事長の仲村覚氏(59)は「台湾統一で日米の介入を阻止するために、沖縄の日本からの分断工作を開始した」と、中国政府の意図を推測する。
仲村氏は玉城知事の国連演説後「百度百科」でこのトピックを検索すると、タイトルに「琉球独立」と記された記事が多数ヒットすることを発見。典型的な記事では、知事が「はいさい、ぐすーよ」という沖縄方言のあいさつで演説を開始したことについて「琉球知事は母国語であいさつし、琉球独立を宣言した」などと記されている。
そのほかにも、知事の演説が琉球独立を目指した行動の一環であるとして「中国は琉球を助けるべき」と主張したり、明治維新後に日本政府が琉球に侵攻し、先住民を虐殺したという虚偽の内容を流布する記事もある。
仲村氏によると、琉球独立運動に関するトピックは2010年に起きた尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件直後と、13年の琉球独立学会設立後に一定数掲載されたが、今年4月下旬に玉城知事の訪中予定が発表されると、これまでと比較にならない膨大な数の動画と記事が発信されはじめたという。
「中国の大手メディアは演説の事実を伝えているだけだが『百度百科』でヒットする記事を見ると、琉球独立とその歴史的な根拠を解説しているものばかり。国内向けにブログなどを使い、琉球独立を支持する宣伝戦が強化されているようだ」(仲村氏)。
最近、習近平国家主席が「琉球」に言及したことに関しても、沖縄占領の本格的三戦(世論戦、心理戦、法律戦)の準備が整ったシグナルだと分析。「中国は台湾有事を『台湾統一戦争』と呼称するだろうが、それが『台湾・琉球統一戦争』に発展する可能性もある」と見る。
国連からは沖縄の人々を「先住民族」とみなす勧告が出て、日本政府が反論している。仲村氏は「台湾有事の際、もし中国が国連安保理にこの問題を持ち込めば、日米は琉球を植民地支配している側とみなされ、先住民族の権利国連宣言を根拠に撤退を要求されることになる」と危ぐ。「知事の国連演説は、県民が先住民族として扱われる素地を作り、中国が沖縄の問題に口出ししたり、恫喝(どうかつ)する理由を与えた。私は外患誘致だと思う」と厳しく批判した。
仲村氏は今後、沖縄分断を阻止するため、今後新たな県民運動の立ち上げに専念するという。「来年の県議選に出馬する予定だったが、沖縄が危機的状況になり、運動との両立が不可能になった。支持者には申し訳ないが、立候補を見送らざるを得なくなった」と、出馬を取りやめる意向を示した。