戦火のウクライナから、美容師をしていたオクサナ・トラチェンコさん(30)が沖縄に避難しており、8月下旬からは浦添市のこども園で保育補助のアルバイトを始めた。「戦争は少数の人間が始め、大勢の人たちが犠牲になる」。祖国を侵略したロシアへの怒りを口にしつつ、沖縄での平和な生活で、徐々に心の傷を癒している。大好きな子どもたちに囲まれながら「日本は、いつまでも戦争を経験しないでほしい」と、平和な日々が続くことを願う。
オクサナさんは首都キーウで美容師として働きながら大学生の妹と暮らし、故郷であるウクライナ中部のヴィーンヌィツャ州には母親もいた。ロシアの侵攻が始まった当時のことを聞かれると「ひどい状況で、とても恐かった」と顔をこわばらせる。空爆の音を聞いたり、ウクライナ軍が行進する様子を見た。
妹は故郷にいる母親の元に戻り、オクサナさんは知人のつてをたどって、以前から興味があった日本に避難することになった。
7月に沖縄に到着すると、浦添市の日本語学校、JSL日本アカデミー(島尻昇理事長)が支援を申し出、無償で寮の部屋を提供し、教室にも通わせた。
オクサナさんは「沖縄の人はとても優しい。感謝している」と話す。日本語も順調に上達し、自ら「子どもとかかわる仕事がしたい」と希望。JSLが調整し、近くにある幼保連携型認定こども園・みのり幼稚園で午後2時から5時間程度の勤務を始めた。
子どもたちは「何で目が緑色なの?」などとオクサナさんに興味津々。オクサナさんは「子どもは大好き。とてもかわいい」と表情を和らげる。保育士をサポートし、子どもと遊んだり、寝かしつけたりと「よく働いている」(同園)日々だ。
JSLの島尻理事長は「最初は表情が暗かったが、だんだん明るくなってきた。沖縄で心が癒されているのだと思う」とオクサナさんを見守る。
そんな彼女の心を再び揺り動かす出来事が起きた。8月、北朝鮮のミサイルが沖縄の方向に発射され、未明に全国瞬時警報システム(Jアラート)が響いた。
異国の地でまたも経験したミサイルの脅威に「とてもびっくりした」。ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が接近しているというニュースを知り、改めて怒りがこみ上げた。
「ロシアには侵略の長い歴史があり、プーチンは自国民の犠牲を顧みずに軍備を増強している。ウクライナはロシアとは全く違い、自由と独立のために戦っている。ロシアにはすぐに出て行ってほしい」。毅然とした口調に、祖国への思いがあふれた。
◆ ◆ ◆
県交流推進課によると、8月30日現在、沖縄に滞在しているウクライナの避難民は17世帯22人。沖縄本島だけでなく離島にも住んでいるという。県は空いた県営住宅に順次、避難民を受け入れている。JSLは東京校でも避難民15人を通学させているが、都では全員の住居を確保している。島尻理事長は「沖縄県の避難民支援は東京都に比べると不十分だ。もっと手厚い支援に取り組んでほしい」と要望する。(仲新城誠)