【視点】沖縄、波乱含みの年明け

 2024年は「静かな凪(なぎ)の年に」と願ったのは、日本で台湾に最も近い与那国町の糸数健一町長だが、現実には波乱含みの年明けになったと言えそうだ。
 中国の習近平国家主席は昨年末、新年に向けたあいさつで、台湾統一について「歴史的必然だ」と改めて強調。また、昨年11月下旬には、石垣市の尖閣諸島周辺に艦船を派遣している中国海警局を視察し「釣魚島(尖閣の中国名)の主権を守る闘争」の強化を指示したと報じられた。
 八重山周辺で軍事行動を活発化させる中国の不穏な動きは、今年もやみそうにない。安全保障や国民保護は、今年も沖縄、八重山の政治にとって大きなテーマになる。
 習主席が新年のあいさつで台湾統一を持ち出したことには、沖縄県民として深い懸念を抱かざるを得ない。中国は尖閣諸島を「台湾に付属する島々」と位置付けており、台湾有事と尖閣有事が連動して起きる可能性は否定できないからだ。
 昨年からは石垣市のふるさと納税返礼品に尖閣周辺で捕れる「尖閣アカマチ」も加わった。だが、報道によると中国側は、必要時には日本漁船に立ち入る計画も策定したといい、尖閣周辺での操業を活性化しようとする石垣市などの動きに対抗してくるかも知れない。
 経済力、軍事力で日本を大きく凌駕した中国が今、尖閣問題で譲歩する理由もない。今年も尖閣周辺の緊張は高まりこそすれ、沈静化はほとんど期待できないと見るべきだろう。
 中国がどうあれ、日本の領海内で漁をすることに漁業者が委縮する必要は全くない。日本漁船が操業する際は海上保安庁の巡視船が警護につくが、今後も気を引き締め、漁業者の安全を確保してほしい。
 石垣島で昨年3月、陸上自衛隊駐屯地が開設され、南西諸島での陸自新設計画が完了した。中国などの脅威に対し「自分の国は自分で守る」という日本の覚悟を示した上で大きな意義があった。
 八重山が津波常襲地帯とされていることを考えると、陸自配備は防災面でも住民に安心感を与える。与那国町に続き、石垣市でも陸自と住民の連携や融和が進む年であってほしい。
 玉城デニー知事は新年のあいさつで、県政の重要課題に①自立型経済の構築②子ども・若者・女性支援のさらなる充実③辺野古新基地建設反対・米軍基地問題―の3項目を挙げた。
 沖縄では新型コロナウイルス禍からの正常化がようやく進み、観光地も以前のにぎわいを取り戻しつつある。県政が経済や福祉対策に注力する絶好の機会であり、ここで辺野古移設問題に足を取られるべきではない。本来なら玉城知事は、県政の重要課題として辺野古の代わりに「離島振興」を掲げるべきだった。
 既に見たように、沖縄や八重山を取り巻く国際環境は厳しい。県は時代錯誤のような反基地闘争に終止符を打ち、政府との無用な対立関係を解消しなくてはならない。
 玉城知事は昨年、辺野古移設を巡る訴訟で最高裁判決に従わない姿勢を示し、県政に対する内外の信頼を大きく損ねた。今年はその反省に立ち、何が県民にとって真の利益なのかを熟考してほしい。
 政府が全国の空港・港湾機能を強化し、自衛隊や海上保安庁が円滑に使用できるようにする「特定重要拠点」の構想に対しても、玉城県政は慎重な姿勢を示している。
 石垣市、与那国町が求める空港滑走路延長に関し、県は来年度の予算要望を見送った。離島住民からは不満の声が漏れる。いずれは県も折れざるを得ないだろう。
 辺野古移設問題への対応もそうだが、県が今やっていることは、結果的には無意味な時間稼ぎでしかない。「オール沖縄」県政は沖縄に何をもたらしたのか。こんなことの繰り返しでは、後世の審判に耐えられないだろう。

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